第25回 元魔王、都の勇者を拉致する。

「ボクは、この子たちと仲よく暮らせることが、なによりも幸せなんですよ」


「お前たちを見てれば、よくわかるよ。

 オレだって、魔族が嫌いってわけじゃねぇんだ。

 ただ、どうしても折り合いのつかないことってのは出てきちまうだろ?

 そういうときは、お互いに触れ合わないほうがいい。

 なんでもかんでも仲よくすることが正しい、なんてことはねぇはずだからな」


「ええ、それはそのとおりだと思いますよ。だから、その線引は、しっかりとしていかなければいけませんよね」


「なんだ、意外と話がわかるんだな」


「そりゃあ、伊達にこの子たちとつき合ってはいないですからね」



 大食い対決が終わり、私たちは食材の買い込みをすませていた。


 大将は『勇者亭』を一時閉店にして、私たちに同行してくれることになった。


 なんでも、


「オレが戻ってきたら、今度はきっちりと、人間と魔族がどっちも楽しめる店にしてやる。そのために、オレはもっと直に、魔族と触れ合っていかなきゃならねぇ」


 とのことで、大将自ら、私たちに頭をさげてきたのだった。


 店員たちには「おのおの各地、各店で武者修行をしてくるように」と言い渡したのだそうで、


「あいつらは一騎当千だから、どこでだろうと活躍できる。俺のくちえもあるから、戻ってきたあかつきには、もっとうまい料理が出せるようになってるはずだ」


「それは楽しみだな」


「だから、オレのほうも負けてられねぇんだ。実験台は頼んだぞ」


「心得た。私たちを存分に使ってくれたまえよ」



 こうして私たちは、『冒険者の食堂』にその名をとどろかせている『勇者亭』の大将――つまり、多くの仲間をひきいていた勇者を、見事に拉致したということだった。


「そろそろ、その『勇者を』ってのにも、無理が出てきてるんじゃないのかい?」


「いいのだよ。こういうものは言ったもの勝ちなのだから」


「そういうもんかねぇ」


 ちなみに、新たに調達した食材と調理器具一式は、すべて大将が背負うことになっていた。


 「自分の獲物を他人に持たせるわけにゃいかねぇ」と、大将自らが持っていくことを志願したのだった。


 だから、イトの荷物は必然的に軽くなっていた。


 ならば、もう、会議をする必要などないな!


「ちょっと待て。その他のものは、結局俺が持つことになってんじゃねぇかよ」


「よかったではないか、イトの唯一の役割が失われなくて」


「ふざけんな。

 それに、役割ってんなら、大食いのときのあれも、なんで俺には教えてくれてなかったんだよ。

 いつの間にか、モタとユーキのふたりだけで話がついてたみたいだし、一言くらいあってもよかったんじゃないのかい?

 そうすれば、俺だって、なにかできたかもしれないじゃないか」


「あれ? 言ってなかったっけ? いやー申し訳なかったねぇ、ちょっとしたトラブルだよ。次からは気をつけるから」


「次からはなんて、なぁに当たり前のことを言ってんだよ、これは俺たちの旅だろ? それを――」


「まあまあ、終わったことじゃないか、お互いなかったことにしよう」


「お前が言うな、お前が。……ああもう、わかったよ、じゃあこれからはくれぐれも、おかしいのは格好だけにしてくれよ、わかったかい?」


「へいへい」


 ちなみに、今の私はもうMOちゃんではなく、元魔王としての姿に戻っていた。


 どうにも簡易MOちゃんの評判はよろしくないようで、これはまた考えなおさなければならないようだった。



 そうして私たちは、また新しい仲間、コクドクを加えて、魔王城への旅を進めるのだった。


「さて、いよいよ旅も大詰めだ。ついに魔族のはびこる魔の国に入るぞ。楽しんでいこうではないか」

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