第93話 自衛隊員

 大阪に落ち着いてから、渚沙は初めて実家に連絡した。東京は被害が少ないのでそれほど心配していないだろうと思っていたのだが、やはり心配していた。あまりにも移動と変化、SNSでの仕事が多くて連絡を疎かにしていたことを申し訳なく思ったけれど、余裕が本当になかったのだ。

 それより、渚沙の家族は誰よりも弟のことを心配すべきだろう。自衛隊員である弟が一番過酷な状況にあるはずだが、様子がわからない。通常、仕事については家族にも漏らしてはいけないのだから。ちなみに弟にも家族がいて妻と小さな女の子が一人いる。


 大阪から新幹線で東京に戻り、医者一家の御宅に滞在していたある日のこと。奥さんと一緒にテレビを見ていたら、奥さんがいった。

「自衛隊の人って本当にいい人が多いのよね。人のために役に立ちたいって、入隊しているのよ」 


 原発問題が深刻化しているのにもかかわらず、各地の自衛隊も順番に現地入りしていた。自分の家が危険な地にあっても、自衛隊の家族は避難しなかったという。家族の想いがどのようであるかは、渚沙にはよくわかっている。

 無名でも偉大な人たちが今の日本に大勢いる。震災時の働きを見て、彼らのようになりたいという被災地の子供たちがけっこういたと聞く。


「激務、不屈の意志力、限りない熱意によって、凡人も偉業を遂げる」


 震災の夜に、偶然開いた本のページに載っていたこの言葉は、彼らのような人たちのことをいっていたのだと思った。自衛隊員たちの善意と並々ならぬ努力が、愚かな戦争の殺し合いに使われることがないよう渚沙は願った。


 二〇一一年三月二十八日月曜日。医者宅で購読していた読売新聞の朝刊の、被災地の駐屯地に所属する自衛隊員の話に胸が痛んだ。


「宮城県多賀城市の多賀城駐屯地では、家族が行方不明だったり、亡くなったりしているのに災害直後からずっと働いている。一人の女性隊員は『はじめはみんな泣きながら働いていた』と打ち明けた。十三歳の妹が見つからない隊員は、高校生の遺体を発見して涙を堪えて手を合わせていた」


 渚沙は、自らを犠牲にする救急隊員や自衛隊、一般人の尊い働きを知ると同時に、震災時にさえ人の弱みに付け込むカルト団体や狂ったスピリチュアル系連中の動きを知り、怒りを募らせていた。弟のことを思って個人的な感情も強かった。都内の幾つかの出版社の人たちと会っているけれど、その中の二人が、阪神大震災の時もカルト連中がこぞって金儲けをしていたと話していた。東日本大震災ではさらに悪質な連中が倍増している気がする。なにしろ、阪神大震災から十五年以上も経っていて相当ネットが普及しているのだ。SNSを使い、詐欺同然のスピリチュアル・ビジネスをしている輩は昔と比較にならないほど多い。


 渚沙はSNSでナータとの警告やメッセージを更新することも再開していたし、新しいSNSのアカウントを開設してさらに真実を広く伝えることにした。知人や、以前からのSNS仲間に問い合わせ、岩手県沿岸部、石巻市など、現地でボランティアをしている人々と連絡をとり、物資援助活動も始めた。

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