第56話 カリルとマフィアと日本人
トラタ共和国では、老若男女問わず、新作品のテレビドラマや映画、漫画、ミュージカル、古典舞踊でも頻繁に神話が楽しまれている。歴史の記録にも残されており、人々は、過去に活躍した数々の神の生まれ変わりと呼ばれる存在を、今でも崇敬しているのだ。
渚沙がお気に入りで見ていたテレビの神話実写版シリーズや神話の本では、神や聖者以外に
その目的は、常に人々や世界を征服することであり、すべての王になることだ。過去の神の化身たちは、たいていそういった独裁者たちを滅ぼすために誕生している。神話に出てくる悪鬼、独裁者たちは、今の世のカルト組織のリーダーや、スピリチュアル系の人々とそっくりそのまま同じだといつも渚沙は思ってきた。
身近な例が井上潤次郎たちである。
井上をはじめとする多くの日本人たちは、黒魔術をしている偽聖者カリルのところに通い、特殊能力を得るために長い時間と大金を費やしたという。カリルの元弟子であった日本人に聞いたところ、かの僧侶
井上はカリルのセミナーを受けた後、本当に特別な力を得られたらしい。一見、生き神たちと同じ祝福の印といわれる奇跡を起こすように見えるが、黒魔術で得た邪悪な力を使っているのだ。もちろん祝福などできないし、無価値であるだけでなく危険が伴うかもしれない。井上はその力を披露するために日本で人を集め、なんとトラタ共和国のシャンタムやナータとまったく同じ伝統服をまとい、二人の真似事をしたという。井上がそこまで幼稚な
井上がカリルに追放された後、再びナータやシャンタムのところに顔を見せない理由は九割方それだと思っている。
ある時、ナータが「カリルは日本人のリーダーたちと共謀して、他の日本人から金を集めている」と渚沙に教えたことがあった。なんとマフィアも絡んでいるという。
カリルがマフィアと関係している話は、現地の新聞に時々記事にされていたので知っていた。日本人リーダーたちと現地マフィアはカリルを通して、間接的につながっていたらしい。なんと罪深い日本人たちであろうか。
カリルが井上を追い出したのは、日本人を騙して不正を働いたからではなく、井上が妻アンに渡すために自分の名前を使って日本人から金を集めたから。カリルは自分が利用され、金が自分の手に渡らなかったことも気に入らなかった。多分それだけのことだ。いずれにしろ、モラルなど一切ない地獄で行われた地獄の住人同士のいざこざである。
渚沙はその時、同国人としては恥ずべきことであるが、勝手にやっていればいい――と、些細な他人事のように
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