14.決戦ノ日賀野戦(突撃編)
日賀野達が出てくるんじゃないかと抱く畏怖はバイク組の到着により霧散する。
バイクを降りるや否や、男共は険しい面持ちでヨウに視線を送った。チャリを降りたヨウは「俺が先陣を切る」喧嘩できる面子は前に、出来ない面子は後から続くように指示。その際、最後尾は喧嘩できるキヨタが受け持つよう言う。
もし背後から攻められたりしたら、と最悪の事態を想定しているんだろう。
浅倉さん達は出入り口を見張ってくれるみたいだ。援軍を呼ばれた時に供えてくれている。
ちなみに喧嘩できない女子組は此処で待機。まずは俺達が中に入って、時間を置いてから中に入って来てもらうスタイルにしてもらった。「気を付けてね」弥生はあの女がいたら、自分が仕留めるからと握り拳を作って熱弁。
一方でココロはチャリを壁際に立て掛けている俺に視線を投げて軽く顔を顰めたけど、一変して笑みを無理やり作ってみせた。
「ケイさんは弱くないですから大丈夫です。なんと言っても私を助けてくれたヒーローですから…、少し経ったら私も行くので」
「うん、ココロも弱くないから大丈夫だよ。古渡がいたとしても、ココロなら大丈夫。なんと言っても、あー……俺の彼女だから」
く、くそう。
俺が言うと似合わない。本当はカッコ良く「俺のオンナだから大丈夫さベイベ」とか言ってみたかったけど、あまりにも似合わないんで自重しておく。顔から火が出そうだしな。
だけど気持ちはココロに伝わったみたいだ。柔和にはにかんでくる。彼女に気持ちが伝わった時点でクサイ台詞を吐いた俺の減点要素が掻き消えた気がした。大丈夫、ココロは弱くない。そう俺は信じているから。
閑話休題、ヨウ達が階段を下り始めた。 慌てて俺も後を追って階段を下りる。
一段一段下りる度に、地上の光が薄くなっている地下への階段。薄暗さが俺の恐怖を駆り立てるんだけど、心積もりもする間もなくヨウは扉を蹴り開けた。カックイイぜ兄貴。マジでアクション俳優になれそう! ……阿呆なことを思っている場合じゃない。
蹴りを合図に俺達は一気に中に攻め込んだ。
室内は俺達のたむろっている倉庫とは大違い。ソファーやら、カウンターやら、なんか居心地良さそうな空間になっている。豪華っつーの? さすがバー店だ。お前等はこんなところをたむろ場にしていたのかよ。贅沢者たちめ!
バイクのエンジン音で俺等の到着に気付いていたのか、部屋の向こうにいた日賀野達はさほど驚く素振りも見せなかった。
面子は揃っているカンジ。負傷したと聞いた魚住も、副頭の斎藤も、ホシも(頭に包帯……怪我をしているのか?)、帆奈美さんも、イカバ(サブと呼ばれていた男)も、アズミ(乙女ゲー好きな不良)も、それから見たことのない不良さんやら(双子? 同じ顔が二つあるぞ)、顔なじみの健太もいた。
寧ろ、「来たか」にやりと大将が口角をつり上げて吸っていた煙草を捨てて余裕を見せる始末。
「ヤマト。テメェよくも奇襲を、ハジメを」
ヨウの憤りは日賀野の冷笑で一蹴される。
せせら笑いがお似合いの向こう大将は、腰を上げる自分のチームメートに移動を指示。狭い空間でドンパチしても面白くない。それにゲームは始まったばかり、此処で決着をつけるのは勿体無い。
「最高のショーにしようじゃねえか? なあ、荒川」
「ヤマトっ、そーやっていつも俺等の神経を逆立てる……ざけんな!」
日賀野は何を目論んでいるのだろう。余裕綽々だ。
だけど奴の言うゲームにお付き合いするほど俺等もお人好しじゃないから、向こうが動く前に「させるか!」ヨウが真っ直ぐ親玉へ。俺等も床を蹴って室内に散らばる。
俺は言うまでもなく、真っ直ぐ友達だと思っている男の前に回った。舌を鳴らしてくる男、健太は俺に挨拶もなく拳を振ってきた。随分なご挨拶だな健太! 軽くしゃがんで拳を避ける俺を尻目に、健太は闘う気がないのか、さっさと奥の通路を目指す。
おいおいおい、ちょっと興ざめしちまうだろ? なんで逃げるんだ? 他の奴等も攻撃は仕掛けるけど仕掛けたまんま、アズミは開始早々そそくさと奥の通路に逃げて行く。
……そうか、最奥には外へと続く勝手口があるんだ。
地下のバーは俺等が入って来た入り口一本だけじゃなく、もう一本、店専用の勝手口がある。だから奥の通路に行く。俺の憶測だけどこの地下のバーは住宅街に近い。勝手口から出たら入り組んだ住宅街に容易に紛れ込める。
嗚呼クソっ、やばいじゃん、それ!
「ヨウ、奥の通路に行かせるな! 逃げられるぞ! 住宅街に逃げ込まれたら厄介だ! 此処の地形は入り組んでて身を隠しやすいぞ!」
「ほぉ、さすがはプレインボーイ。分かってらっしゃる」
いや、褒められても嬉しくッ、うわっち!
助言を飛ばすと同時に飛んでくる拳。地味の反射神経も捨てたもんじゃない。どうにかソファーの向こうへとジャンプして避ける。
俺に拳を向けてきたのは双子不良さん方。紅白饅頭みたいな髪の色しやがって……どっちも男。えーっとどなた様? 初対面ですよね、俺等。
「あっちゃん、これが荒川の舎弟なんだって。やっちゃおうか?」
紅白饅頭の紅の不良がニッコニコと物騒なことを吐き、
「ゆっちゃん、これが荒川の舎弟みてぇだな。やっちまうか?」
紅白饅頭の白の不良が満面の笑顔で俺に拳を振り下ろしてきやがった。
なんだお前等、揃いも揃って無邪気で残酷い笑顔作りやがって! まずは名乗れ! 心中のツッコミがボロッと口に出る。やっちまったと思うけど、二人は律儀に名乗ってくれた。紅白饅頭不良のお名前、紅不良が玉城 愛海(たましろ あいみ)で白不良が玉城 勇気(たましろ ゆうき)だそうな。
「僕とゆっちゃんが揃えばオトモダチフレーズが成立! だって愛と勇気だけがお友達って歌のフレーズがあるもんね?」
「おうよ、あっちゃんとオレがいれば、オトモダチフレーズが成立だぜ」
そうさ愛と勇気だけがお友達……まさか漫才コンビじゃないよな、お前等。
確かに俺もそのフレーズ知っているぜ? そのフレーズを聞く度に、『愛と勇気だけしかオトモダチいないのかよ!』とか思った。空飛ぶアンパンヒーローは孤独な戦士だぜ、とか若かりし頃は思ったぞ。カレーパンヒーローや食パンヒーローはオトモダチじゃないのかよ、とか疑念も抱いたぜ……馬鹿を思っている場合じゃない!
揃って攻撃を仕掛けてくる双子不良に俺は逃げ惑う。二人相手とか無理だ。
しかもなんかあいつ等の攻撃にキレがある。素人の拳とは思えない。キヨタみたいに何か習ってたんじゃ「ホワチョー!」双子不良の攻撃の魔の手から救ってくれたのは、噂をすればキヨタだった。俺の弟分! ナイス過ぎる!
紅不良と白不良を交互に蹴りを飛ばし、シャッキーンと可憐に着地するキヨタは玉城兄弟交互に指差す。「お前等知ってっぞ!」チビ不良は声音を張った。
「合気道を習っていた双子の愛海と勇気だろ! 同じ道場に通ってたから憶えているぞ。だけど、入って二年ちょいでやめたよな」
マジかよ……じゃあそれなりに……。
「そーそー。中一でやめた。でもそれなりに腕はあるよ? ね、ゆっちゃん。二年も続けていたんだし」
「ん、一人じゃ無理だけど二人なら清隆を相手にできる。そうヤマトは踏んでオレ等を仲間に引き入れた。肩を負傷しているらしいしな、清隆ひとりどうってことない。あっちゃんと一緒ならやれる」
うっわぁ、キヨタ対策は万全!
向こうも俺等の面子を徹底的に分析して調べ上げたみたいだ。
わざわざキヨタと同じ道場に通っていた輩を仲間に引き込むなんて。結構ガタイいいぞ、あいつ等。体もでかいし。ちびなキヨタには不利だ。
だけどキヨタはやる気満々。「ケイさんに手出しはさせねぇ」目を眇めて、二人まとめて相手をしてやる。捨て台詞を吐いて構えを取った。「いいね」紅の愛海、「腕がなる」白の勇気、「「仕留める!」」声を揃えてキヨタに襲い掛かる。
奥の通路に避難する皆とは別行動を取る双子不良。キヨタは俊敏な動きで相手の攻撃を受け流して、肩の痛みに耐えながらも、苦戦を強いられながらも果敢に相手の挑戦を受けている。
「キヨタ!」
腕っ節のない俺じゃ助太刀することのできない。
邪魔になると分かっていつつも、心配のあまり名前を呼んでしまう。
「負けません!」
キヨタは俺に向かって意気込んでみせた。どんなことがあっても負けない、だからこっちは任せて欲しいとキヨタは俺に懇願。だけど、お前……ひとりじゃ!
俺の心配を受け流すキヨタは、「ちゃんと認められたいんっス!」合気道を習っていたからどうのこうの、そんな認められ方じゃなくて、ちゃんと一人の男として認められたいと声音を張った。
あいつは言う。自分は利二みたいに兄分を理解してやれることも、モトみたいに兄分の悪い点を指摘することも、何もできない不器用不良。分かっている。兄分を支えられる弟分こそが舎弟になれる、と。俺とヨウのコンビを見ていたり、モトの心意気を見ているから、それを大きく痛感している。
舎弟になる以前に、自分はまだ兄分に認められていない。男として、キヨタとして、認められていない。
でも尊敬している気持ちは負けないから、尊敬している人の前じゃ格好悪い姿見せられないから、誰よりも俺に認められたいから。
「俺っち、ケイさんみたいにどんな苦難があってもッ……それを乗り越えられる男になりたいっス。逆境でも屈しないケイさんみたいになりたいっスからっ! 此処は任せて! ケイさんはっ、奥の通路を!」
「キヨタ……お前ってホントバカヤロウだ!」
「はいっス。ケイさん馬鹿っスよ、俺っち」
「バッカ」床を蹴って俺はこの戦闘をキヨタに任せた。
俺みたいな男を、こんなにも尊敬しちまってさ! ほんとに馬鹿だ。馬鹿過ぎるって。認めていない? ンなわけねぇ……認めているよ。合気道ができるできない関係ナシにお前は俺の弟分。地味野郎の俺をこんなにも尊敬してくれる、馬鹿で真っ直ぐすぎる可愛い俺の弟分だよ! 負けんな、キヨタ! 俺はお前を信じているからな!
走る俺が向かった先は奥の通路。
健太を含む面子の何人かはあそこを潜っちまったけど、まだ親玉の日賀野や副頭の斎藤、帆奈美さんや魚住が残っている。
戦力の要が此処に残っているんだ。あそこの通路を塞げば扉を閉めるだけでも時間を稼げる。向こうの目論んでいるゲームを阻止することが出来る! それに向こう通路が裏口に繋がっているということは、協定を結んでいる不良が援軍が入ってくる可能性もっ……止めないと。何がなんでもそれだけは止めないと!
「おーっと舎弟くんが何かしよるっちょんまげ!」
俺の行動を読んだ魚住がウザ口調で追い駆けて来た。短めの若葉色の髪が視界の端に入った。
本当に負傷しているのか? 疑問を抱くほど機敏な動きで右ストレート。
ヤラれる―!
痛みを覚悟した俺を助けてくれたのはオレンジの長髪を動きに靡かせた不良。
「へいへーい! 僕ちゃーんを無視しないでよぉ」ニッタァと笑みを浮かべるワタルさんは右の手の平で相手の拳を受け流して、左の手でお返しのボディブロー。向こうは受け流せなかったみたいで、物の見事にワタルさんの痛恨の一撃を腹部に受けていた。
眉根を寄せて後退する魚住は、「腹は反則じゃろ」余裕なく皮肉ってニヤリ。負けん気だけは強いみたいで、元親友のワタルさんに向かってシニカルな笑みを作っていた。
思うことはあるけど、今は通路を塞ぐことが優先。
「任せました!」俺はワタルさんに後のことを任せて(「リョーカイ」と能天気な声が聞こえた)、通路に向かって駆けた。
お次に出てきたのは赤髪の副頭さん。俺の顔を見るなりクスリと笑ってくる……おい、失礼な奴だな! 人の顔を見るなり笑ってくるとか、真面目に失礼だぞ! 俺の顔が面白いかい? へーい、何処にでもいそうなお顔だってのにな!
取り敢えず、顔のパーツ、遺伝子は父さんと母さんのものだから、俺の両親に謝れ! 土下座して謝れ!
「習字男……ククッ……習字伝説……ククッ、ゲッホゲホ」
ンマーっ! そういえばアンタは笑い上戸でしたね、顔に似合わず!
だがしかし、油断すると痛い目を見るだろう。なんてったって向こうの副頭なんだぜ?! 喧嘩は相当なもんッ、ほっらぁきたぁあ!
俺は急いで跳躍、後退、回避、飛んでくる蹴りに怖じる。ソファーを乗り越えて長方形の硝子テーブルに回るけど、めちゃめちゃ素早いよ笑い上戸の副頭さん! テーブルに乗り上がって追い駆けてくる!
こっちもテーブルに乗り上げて逃げたいけど、テーブル上には空きのビール缶や菓子類が乗ってて意外と邪魔! 乗り上がれない! それと一つだけツッコませてくれ、ビール缶とか……日賀野チーム、アンタ等全員未成年だろ!
空気を裂くように飛んでくる拳に急いでしゃがんで避けるけど、向こうの判断は的確。左足が飛んで来た。
マジかよ今度こそやられるっ! そう思った瞬間、ドン――真横から衝撃。力強く押されて勢い余った俺はソファーに顔面から突っ込んだ。アイタタタッ、助かったけど今のは……ダッセェ! ついでに誰が助けてくれたんだろ? 顔を上げれば、ソファーに飛び乗っているシズの姿。助かった、我等が副頭のお出ましだ!
シズは眠そうに欠伸を噛み締めながら斎藤を見据えている。
途端に冷静を纏う斎藤は目を細めて、シズにガンを飛ばしていた。笑い上戸でも場は弁えるみたいだ。フンと鼻を鳴らしてシズに悪態。
「お前がチームの副頭か」
「ふぁ~…ああ一応……おまえっ!」
グシャリ、向こうの副頭さんがテーブルの上の菓子を踏んだ。
それはコンビニで売っている個包装されたプレミアムのロールケーキみたいだ(しかも未開封)。キャツが踏むその瞬間を目撃したシズは一変。眠気なんて吹っ飛ばして、「なんてことを……」どれだけ非情な仕打ちだと思っている、なんぞと吐き捨て相手を睨む。
それがどれだけ美味いか知ってるのか、唸り声を上げている我等が副頭シズ。
あーそういえば……シズってよく食べよく寝る子だから食べ物に関しては饒舌になる子だっけな。っということは、シズにとって向こうがした行為は。
「食べ物を粗末にする。それがどれだけ……愚かなことか! 今すぐその足を退けろ。ロールケーキが悲鳴を上げている!」
……あのシズさん。
「ん? ああ、邪魔だな」
斎藤はシズの心情を知ってか知らずか、ぞんざいにロールケーキを一蹴り。無情にも潰れたロールケーキが床に転がる。
その瞬間、田山は聞いてしまった。シズの堪忍袋の緒が切れる音を。我が副頭は携帯のバイブレーターのようにブルブルと震えて怒りを露にした。
「コンビニで1個150円のプレミアムロールケーキを蹴り飛ばすとは……自分の前で蹴り飛ばす。お前だけは……お前だけは」
「噂には聞いていたが随分と食い意地が張っているな。たかだか菓子如きで怒れる。馬鹿だな。ククッ……ロールケーキに怒れる男……ククッ」
「笑い事ではない。ロールケーキの美味さを知らないくせに。お前だけは自分が仕留める。ロールケーキを侮辱した仇、必ず晴らす。ケイ、此処は任せろ!」
「……うん、任せた。頑張って仇をとってくれ」
なんか状況的に間違っている気がしないでもないけど、此処はスルースキルだ俺! 一々ツッコんでたら身が持たないぞ!
俺はロールケーキの無念を晴らそうとするシズに向こうの副頭さんを任せて駆けた。通路、そう俺は通路を塞がないといけないんだよ! あそこの通路に繋がってる扉を閉めて、椅子か何かで固定すれば向こうが外に出ることも、援軍を中に呼び込むこともできなくなる。
急げ、急げ、いそげ。
焦燥感に駆られる俺の前にまたしても邪魔者。目と鼻の先の距離に大ボス、魔王降臨。俺のトラウマ降臨。
俺はギョッと目を削いで大きく後退。な、なんで、お前が目の前に現れるんだよ! 畜生、ヨウはどうしたんだよ、ヨウは!
ドッと冷汗を流す俺に対し、ニンマリ口端を舐めて獲物を狙うように目を細めてくるのは日賀野大和。クツリと喉を鳴らしながら笑って、「よっ、プレインボーイ」急いで何処に行くんだと歩み寄って来る。
ぎゃあああ来るな来るなくるな! 俺のトラウマぁあああ! ヨウはどぉおおしたぁあああ?!
「あはは……どーも。今日も素敵に無敵そうなご様子で」
「ククッ、お前も相変わらずだな。プレインボーイの心は読めている。舎兄はどうしたって素振りだな?」
ポンピン! あいつは一目散にアンタに突っ込んで行ったってのにぃいい何しているんだあのイケメン不良はぁああ!
マジ、無理、むり、アンタだけはガチ怖くて体の芯が震えてらぁ! フルボッコの記憶がまざまざと脳裏に過ぎる。
と、取り敢えず落ち着け。
ええっと、さっきまでヨウは日賀野に突っ込んで相手をしていた。近くには帆奈美さんもいてカウンターら辺でドンパチしていた。カウンター付近には倉庫部屋っぽい部屋があって。あ、その部屋からドンドンと叩く音が聞こえる。「ヤマトテメェ!」扉の向こうから聞こえてくる怒声……まさか!
「ヨウ、あの部屋に閉じ込められたのかっ!」
なんて間抜けなんだい兄貴! 開始早々閉じ込められるなんて!
「さすがはプレインボーイ、よく頭が回っている。あいつは単純馬鹿だからな。ちーっと攻撃を誘って、倉庫にどーんっとな。ちなみに帆奈美と一緒だろうぜ。おっとプレインボーイ、二人のお邪魔をしちゃ野暮ってもんだぜ? 今からは二人のアダルトタイムなんだからよ」
「は? アダルト……?」
どういうこと? アダルトタイムってなんか卑猥なんだけど。
「ま、今はどーでもいいだろ。田山、貴様は俺のお相手してくれよ。遊ぼうぜ? 俺は貴様と遊ぶことが大好きなんだ。お前の土地勘はこっちにとって脅威だしなー? 俺とあーそびましょ」
「おぉお、俺は全然お好きじゃないです! ついでに土地勘、そんなにないっす! ほんとっす!」
ヌァアアア! 歩み寄ってくんなよぉおお! おりゃあ半泣きだぞ、泣いちまうぞ! 男の子でも泣いちまうんだぞ!
レベル5の俺がレベル99の日賀野に勝てるわけないじゃないかあああ! フルボッコされたからこそ身を持って分かるんだぞ実力の差! 誰かひのき棒、せめてひのき棒を俺に……ああもう、ヨウっ、アーニキッ! なんでこいつにしてヤラれているんだよぉおおお! 俺がこいつのことをすこぶる苦手なのは知っているだろぉおお!
カウンターに逃げ込む俺をジッリジリ追い詰めてくる日賀野。ネコがネズミを甚振っている図になってらぁ。畜生、いっそ丸呑みにしてくれ。楽に死なせてくれ! 嘘、俺は生きたい! 死ぬなら温かいベッドの中で安らかに死にたい!
「なあ、プレインボーイ。どうして俺がテメェを舎弟に狙ってっか分かるか?」
カウンター台を挟んで飛んでくる質問。
ンなの知るかい! 理由としては俺がヨウの舎弟だからだろう! ついでに俺をからかいたいからだろい! ……なんかヤーな予感がするんだけど。
聞いちゃいけない領域に敢えて踏み込んでしまうのは人間のサガなのだろうか。「なんで、なんですか?」質問して大後悔。日賀野は面白おかしそうに答えた。
「手に入り難いと分かっているほど、手に入れたくなるタイプなんだ俺は。ついでに俺じゃなくて荒川を舎兄に選んだっつー現実がなぁ。超ムカつくから狙っている。テメェの能力も買っているが……なんで俺が荒川如きに。あいつに負けるなんざ癪も癪だ。分かるか? プレインボーイのせいで、俺、黒星が付いているんだぞ。責任取って白星にしやがれ」
どこに俺の責任あるよ。アンタの諸事情なんて知るかいな!
うーわっ、聞かなきゃ良かった。マジで聞かなきゃ良かった。こいつ、典型的ないじめっ子だ! しかもターゲットにした相手にはしつこい! 粘着質がめちゃくそ高い! ターゲットにされた俺、乙過ぎる!
「白星は無理ですかね」ははっ、愛想笑いを浮かべる俺。「まーだ間に合うけどな」ニヤリニヤリの日賀野。
いやいや間に合わない。間に合わないんだぞ。な、泣きたいけど、怖いけど、まだ涙は出さないんだぞ! と、トラウマだからってなぁ、いい気になるなよコノヤロウ! お前なんてなっ、めちゃめちゃ怖いんだぞっ、足が竦み始めているよ!
ふぁ、ファイトだ俺。
所詮は日賀野大和、同じ男の子じゃないか! 同世代の男の子じゃないか! 相手はふ、不良ってだけでっ……別に恐れることなんてないんだぞ。喧嘩が強いってだけで恐れることなんてっ……怖いっ、泣きたい、ヨウのバッキャロウ!
あ、そうだ、ヨウ。どうにか閉じ込められた舎兄を助けないと。
俺は右に視線を流してすり足。日賀野も右に視線を流したその隙をついて、左へと走った。
左のカウンター奥の倉庫部屋にヨウが閉じ込められている。外側のドアノブに椅子の背凭れが立て掛けてあるようだ。つっかえ棒代わりにされているんだな。急いで椅子を蹴ってつっかえ棒を取り除くと、倉庫部屋を迷うことなく開けた。
「ヨウ! ぶ……じぃ……は?」
……無事って何だっけ?
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