13.進路調査書には“スタントマン希望”と記しておきたい



 チャリを取りに帰ってくれた利二、タコ沢が倉庫に戻って来る。  

 それを合図にヨウは二人に事情を説明して行動を起こすと皆に指示。タコ沢は俺達と行動、利二は浅倉さん達と一緒に行動を共にして情報をこっちに送って欲しいと頼む。浅倉さんと仲間が数人、こっちに向かっている筈だから来次第彼等と行動して欲しい。


 浅倉チームが来るまで自分達も此処にいるからとヨウ。

 一人で此処にいても大丈夫だって利二は言うけれど、「テメェは仲間だ」何か遭って傷付いて欲しくないとヨウはキッパリ告げた。これには面を食らっていた利二だけど、「ありがとうございます」仮でも仲間扱いしてくれて嬉しいと利二はヨウに綻んでいた。

 「チームメートじゃなくても仲間だ」ヨウはニッと利二に笑いかけ拳を求めた。あいつなりの利二への歩みだと思う(性格的に苦手かもって言ってたわりにはそんな素振りをみせていない。これもリーダーの素質かもしれない)。

 ヨウの行為にこれまた面食らっていた利二だけど、迷わずその拳に自分の拳を当てて武運を祈ると言葉を掛けた。


「できることはしますから。どうか荒川さん、皆さん、ご無事で」


「ああ、サンキュな。五木。テメェも無茶するなよ。悪いな、巻き込むような形になって」


 「いいえ」利二は自分から関わったことだって一笑、俺に視線を流してきた。


「どーもカッコつけ馬鹿の友を持つと、自分もカッコつけになるみたいですから」


 えーそれって俺のせいかよ? 完全に責任転嫁だろう?

 不満を抱く俺を余所に「言われてやんの」ヨウは茶化しを飛ばし、利二に改めて礼を告げる。協力してくれて本当にありがとう、と。

 俺からもありがとうな、利二。ほんとうに協力してくれてありがとう。


 浅倉さん達がやって来ると、利二は蓮さん達のバイクに乗せてもらっていた。

 これから利二は浅倉さん達のたむろ場で待機だって。主に情報収集を担当。何かあり次第俺等に連絡する間接的連絡係りだ。 仲間内のバイクの後ろに乗せてもらう利二は、「無理だけはするな」心配性らしい言葉を俺に飛ばしてきた。怪我をするな、は無理だろうからくれぐれも無茶だけはしないように。しっかりと釘を刺してくる利二に右の拳を差し出して、「おう」俺は気を付けると目尻を下げた。


「利二も気を付けてな。マジでありがとう、有り難くチャリは借りるから。利二、お前は俺の大事な地味友だぞ。俺にとって一番の理解者だ」


 意表を突かれたような顔、一変して破顔。


「まったく……恥ずかしい奴だな、お前も。自分もだよ、田山」


 俺の拳に自分の拳を当てて、再三無理だけはしないようにと言葉を掛けてきた。おう、利二も無理はするなよ。



 ヨウは浅倉さん達に挨拶を交わしている。

 「悪いな」手を貸してもらっていることにお礼と詫び、両方を口ずさんでいた。

 すると浅倉さんは何を言っているんだとばかりに、舎兄の肩を力強く叩いて協定を結んでるんだからと大きく笑声を上げた。『エリア戦争』の借りを少しでも返さないと、浅倉さんはウィンクをして舎弟二人に同意を求めた。

 不良内では珍しく二人の舎弟を持っている浅倉さん。一人は二代目舎弟桔平さん、一人は初代舎弟蓮さん。両者賛同を口にしていた。


「俺達が『エリア戦争』に勝てたのも、アンタ等の協力あってだ。仲間と再結成できたのも、やっぱりアンタ等のおかげ。借りは返さないと道理に反するって。なあ? 蓮」


「ああ。こっちは任せてくれ。今の俺等だったら、きっと大きくあんた等に役立てれる筈だ。真っ直ぐ日賀野達を潰して欲しい」


 桔平さん、蓮さんは上手く舎弟をやりこなせてるみたいだ。雰囲気で分かる。

 良かった、蓮さん……ちゃんとチームに溶け込んでいるみたいだ。

 彼等ならきっと大丈夫だろう。だって傷付き傷付いてチームを再結成したんだ。絆は深い。もしかしたら俺達よりも深いかもしれない。そう思うほど、彼等は強い絆で結ばれたんだ。きっと大丈夫だ。


「おりゃあ、おめぇ等に是非とも一旗挙げて欲しい。勝って来いよ」


 浅倉さん。頼もしい一言だ。


「全力でフォローせんとねら、こっちんこつは気にせんでちゃくれんね(全力でフォローしますから、こっちのことは気にしないで下さい)」


 あー……副頭の涼さん。

 多分頼もしい一言を投げてくれたんだろうけどチンプンカンプン。取り敢えず誤魔化し笑いで声援を受け止めているけどちっとも分からん。同じジャパニーズなのに異文化を感じてしまう方言、恐るべし。


 浅倉さん達との挨拶もほどほどに、利二は向こうの仲間と一足先に浅倉さん達のたむろ場へ。浅倉さん達は俺等をバイクでたむろ場に運んでくれるために残ってくれている。

 利二を乗せたバイクの音たちが聞こえなくなると、ヨウはふーっと息をついて浅倉さん達を背に仲間達を集合させる。

 俺達も行動開始だ。各々乗り物に乗って日賀野達のたむろ場に乗り込む。俺達のたむろ場から日賀野達のたむろ場までチャリで約15分ってところか。近道すればもうちょい時間を削減できる筈。皆はバイクだしな。なるべく時間削減を心得とこう。

 「誰一人欠けたくねぇ」だから無茶だけはするな、ヨウは真剣な眼差しで仲間達に言う。


「いいか。目的は日賀野チームを潰すこと。けど、やべぇっと思ったら自分を優先しろ」


 うーん、そらお前が一番当て嵌まるぞ。ヨウ。

 俺が思っていたことをワタルさんが口にしてくれたおかげで(「ヨウちゃんにだけは言われたくナーイ」)、場の空気が少し和んだ。んでもって和んだついでに、「はいっス!」キヨタが元気よく挙手。今の心境ちょっとだけ語りますとかKYなこと言ってきた。

 おいおいキヨタ、空気を読みなさい。心中で呆れる俺を余所にキヨタは自分の右手を円陣中心部に差し出して口を開く。


「俺っち、途中からチームに入れてもらいましたけど、すっげぇこのチーム好きっス! だから今回のこと終わらせて皆でまたカラオケに行きましょう!」


 満面の笑顔のキヨタ。

 突然のことに皆はキョトン顔。俺はこいつのしたいことが分かっちゃったぞ。

 あーあー愉しいことしやがってからにもう! へい、調子乗りでノリの良い田山圭太。二番いっきまーす。


「暴露します。ヨウから舎弟に指名された時心の中ですげぇ泣いていました。だって俺、不良じゃなかったし……地味だし……何度白紙にしたかったか。でも今は舎弟になったことで皆と会えたから良かったと思う。最後まで頑張ろう」


 俺はキヨタの手の甲に自分の手を重ねた。

 自分の意図を分かって嬉しいとばかりに、ニッと笑ってくるキヨタ。俺も一笑する。チームだからこそ、こういうことをしたいんだろ? 不良の群がこれをするってのも不似合いだけどな。


「んっもぉ。体育祭じゃないんだからぁ。青春してどーすんのよぉ? ま、しょーがないなぁ。三番ワタルちゃーんの一言。ファイト一発!」


 けらけらと笑うワタルさんが俺の手の甲の上に自分の手を重ねた。

 俺等のやり取りで、もうチームにも意図が伝わっている。「オモシレェじゃんか」響子さんがこういうの、嫌いじゃないってワタルさんの手の甲に手を重ねた。


「うちもこのチーム、気の置けない奴等バッカで好きだよ。喧嘩じゃなくて、カラオケとかでドンチャン騒ぎてぇな」


 響子さんの手の甲にモト。


「オレ、来年も再来年もこの面子と一緒にいたい! 勝とう! あ、これが終わったら受験勉強……ボチボチしないといけないんで皆さん、勉強の面倒宜しく」


 モトの手の甲にココロ。


「わ、私……こんなにもオドオドオロオロな性格ですけど……みなさん、優しくしてくれました。で、出逢えて良かったと思います。こ、こ、このチームにいたおかげで……自分がちょっと好きになれました」


 ココロから弥生、彼女の場合は両手を重ねてきた。


「右手は私、このチーム大好き! 左手はハジメ、絶対チームに戻って来るから待ってて! 以上! 次、タコ沢!」


 「俺は谷沢だ!」吠えるタコ沢は嫌々手を重ねてきた。ほんとうに嫌々。俺はチームに入ったは覚えねぇ、とかブツブツ。


「チッ、今は臨時で入ってやっている。けど、これが終わったらヨウ、ケイ。テメェ等への雪辱を晴らす!」


 まーだそんなこと言っているのか? もう仲間じゃんかよぉ。忘れようぜ、そんなこと!

 タコ沢の大きな手の甲にシズ。


「……ねむい……終わり次第、ラーメン……全員でラーメン……」


 なに、その仕事終わりのリーマンがかますノリは。副なのに全然緊張感ねぇ!

 最後は我等がリーダーのヨウ。一呼吸置いて副頭の手の甲の上に自分の手を重ねるとメンバーの顔を見渡す。強張った表情から一変、「大事な仲間だ」自分にとって失いたくない面子だと目尻を下げるイケメン不良は重ねられた手に視線を落として、また一呼吸。


「終わらせるぞ。これを終わらせて……ハジメが戻って来たら全員で飲み会だ。ドンパチすっからな。うっし、行くぞっ!」  


 掛け声に俺達は天高く一声。 

 重ねた手を温もり達を自分の手の甲に染み込ませ、全員の気持ちを一つにして円陣を崩すと各々行動開始。

 「微笑ましいぜ」一部始終の光景に浅倉さん達が笑声を漏らしていたけど、俺は彼等の表情を見ることはなかった。急いで倉庫裏に回り、利二に借りたチャリの鍵を解除しないといけなかったから。


 やや汚れた銀のボディをしたチャリを見つめて、俺はうんっと自己完結する。乗りなれていないチャリだけど大丈夫。路上に放置されていたチャリも乗りこなした。きっと乗りこなせる……疵付けるかもしれないけど。ごめん、利二。綺麗に返せる自信ないからな。

 輪が連なっている頑丈なチェーンを外して鍵を解除している間にも、けたたましいエンジン音が消えていく。バイク音が次から次に外へと出て行っているようだ。早く俺も行かないと。


 チャリを押して倉庫前に戻る。

 瞠目、そこには舎兄の姿。あれ……なんでヨウがまだ此処にいるんだ。お前、バイクには乗らなかったのか? チャリだと皆よりも遅れて到着するかもしれないのに。俺の心情を見透かしたようにヨウは一笑。歩んで俺の肩を叩く。


「頼んだぜ舎弟。俺にはバイクより、こっちの方がしっくりくる」


 このキザ男め。

 そうやって凡人舎弟を頼ってくれるところがキザなんだよ。こんのイケメン不良。イケメンというところがまた癪だぞ。

 俺はチャリに跨ってペダルに足を掛けた。颯爽と後ろに乗ってくる舎兄を見やるとペダルを踏んでチャリを前進。その際、ヨウに教えてやる。めちゃくちゃ今更だけど、二人乗りは交通違反だってことを。下手すりゃ罰金だってことを。

 そしたらヨウは笑いながら「罰金の時は折半だな」なんて言ってくれた。当たり前だろ。二人で乗っているんだ。罰金を科せられたら当然折半だ。なんでも半分だ。兄貴。




 風を切ってチャリを漕ぐ俺は皆と別のルートで日賀野達のたむろ場に向かうことにした。

 それに関しちゃヨウは何も言わない。道は俺に任せてくれている。信頼してくれる証拠だろう。細い路地裏を通って、住宅街や団地を突っ切ってもヨウは何も言わない。「こんな道があるなんてな」感心してくれる始末。


 と。


 俺は周辺から聞こえてくるバイク音に眉根を寄せた。騒音になりかねないバイクの音は団地街の静寂を平然と崩している。

 ただの通りすがりのバイク音ならいいけど、音は複数。道の入り組んだ団地街は細くて面倒な形になっているから、滅多なことじゃバイクなんて通らない。複数のエンジン音が響き渡るなんておかしいんだ。

 警戒心を募らせる俺は、「見張られていたのかも」ヨウに敵さんの臭いがすると意見を投げる。周囲を見渡すヨウはビンゴとばかりに口笛を吹いてきた。団地向こうの細い道に不良らしきライダーが見えると目を眇めていた。

 マジかよ。初っ端から妨害とかナシだぜ。ほんっと。


 だがしかし、入り組んだ道はチャリの方が有利である!


「ヨウ、真面目にしっかり掴まっとけよ。今回は笑えない道を通るから!」


「笑え……は?」


 どういう意味だって首を傾げるヨウに、「俺も初めてだから怪我するかもしれない」引き攣り笑い。

 いやぁ、でも軽い怪我で済むなら……なあ? 奴等を振り切るには団地をただ通るだけじゃ無理だ。平坦じゃない道を通っていかないと。さあ気張れ、舎弟の俺!

 まずは急ブレーキを掛ける。「うわっつ?!」前のりになるヨウの悲鳴を余所に、俺は急いでハンドルを切って方向転換。チャリは機転が利きやすいところが利点だと思う。バイクみたいに猛スピードが出るわけじゃない。反面、チャリの不利な点はバイクに比べてスピードが無い。このままじゃすぐに追いつかれる。

 停まることで向こうに見えていたバイクの姿が前へ前へと消えて行く。尻目に右にハンドルを切って、俺は団地内の駐車場を突っ切った。団地の敷地に設置されている公園を通り抜け(ちびっ子の諸君、驚かせてごめん!)、段を無視して脇道に出る。


 ガクンと上下に揺れるチャリの揺れと激しさに、「マジで……笑えねぇ」ヨウが俺の肩を掴みなおしてきた。バッカ、笑えないのはこれからだぜ!

 紆余曲折している俺達の姿を見つけたバイクが追って来た。チッ、団地は見通しがいいからな。どんなに振り切ろうとしても簡単に見つかっちまうんだろうな。一旦急ブレーキ。後ろを走っていたバイクを前に見送って、俺は左にハンドルを切った。

 ……ゲッ! なんか徒歩組の不良もいるんだけど! しかも集団?!


「任せろ、ケイ。テメェは運転だけに集中しろ!」


 頼もしい発言をしてくれる舎兄のために、俺はチャリのスピードを最高潮にした。

 “足”は喧嘩できる奴を乗せて、はじめて爆発的な攻撃力を生む。つまりヨウと俺のコンビは相性が最高なんだ。

 集団に突っ込む俺を援護するヨウは相手に向かって蹴りを一発。チャリは真横からの攻撃に弱いけど、攻撃される前にヨウがフォローしてくれる。伸ばした腕で相手の首に引っ掛けたり、左フックかましたり、さすがは天下の荒川庸一。喧嘩に長けている不良だ。おかげでさほど運転に支障は出なかった。

 集団を突っ切った俺はヨウにバイクの存在を尋ねる。振り返るヨウは、「三台見える」まだ撒けていないことを教えてくれた。

 あーあ、やーっぱ……やるっきゃないっすかアノ道。俺だってチャリでは通ったことねぇよ。あそこの道ならバイクも追ってこないだろうけど、この道はちょっとばかし肝が冷えると思われる。


「ヨウ、しっかり掴まっとけ!」


 絶対に振り落とされるな。

 俺の強い警告と同時に、「おまっ……」ヨウは引き攣り声を出した。


「ばっ、馬鹿! テメェそっちは階段っ……ま、まさか!」


「だから笑えないって言っただろ?」


「マジで行くのか?! ガチでチャリが回転するんじゃねえの?!」


「本気も超本気! 映画みたいだよな! ははっ、アクション映画に出れるぞ俺等! 舌噛むなよ!」


 嘘だろ、おい。

 ヨウは痛いくらい俺の肩を掴んできた。俺は心中で十字を切って、細く段のある下りの階段に迷う事なく突っ込む。

 石段に加えて緩やかだと言い難い傾斜を転げるようにチャリで前進。この場合、落下していると表現した方が良いかもしれない。それに似た錯覚が俺とヨウを襲っている。

 ドン、ドンッ、ドン――! ぬわあああっ、ガックンガックン上下に揺れる階段とハンドル操作の難しさがやべぇ! まじでスタントマンをしている気分なんだけど!


「ケイケイケイッ、マジで落ちるかもしんねぇ!」


「ど根性だヨウッ、ファイツ!」


 ヨウが落ちないか確認しつつ、チャリの回転を防ぐためにブレーキを握って俺は運転に集中する。

 タイヤがパンクしないといいけどっ、ああっ、コワッ! 恐ろしいほどコワッ! 揺れる! 視界も手も体も全部揺れるっ、良い子の皆は真似しないでくれな!


「ッ、ハンドルが取られる。」


 脳みそが右に左に揺れているような感覚に襲われながらも必死にハンドルを握り締めた。

 俺が怪我するよりも、ヨウが怪我する方が痛手だ。どうにかの乗り切らないと!

 今まさに階段を上ろうとしていた主婦の方がアリエナイ下り方をしてくる俺等に驚き返って、咄嗟な判断で道を開けてくれる。聡明な判断をありがとう、おばちゃん。助かりましたぜ! さすがに人を轢かないかどうか、判断するまでの余裕はないから!


 驚愕している主婦を余所に俺は最後まで階段を下り切ると、ハンドルを切って民家のコンクリート塀に激突しそうになるスピードの出ているチャリを右の足裏で止めた。ジーンッと痛む足裏に俺は身震い。一連の流れの中で一番痛かったかも。今のはナイ。痛い、マジで痛い。

 「ヅッ…っ」右の足裏を地面に擦り付けて身悶えする俺。一方でヨウがぐったりと凭れ掛かってきた。アウチ……重いぞ、ヨウ。ついでに足の裏が痛いっ、真剣に痛いっ、痛いっ。

 だけどヨウはそれどころじゃないらしい。痛みに悶えている俺を尻目に重々しく溜息をついて、もう二度とごめんだと前髪を掻き上げた。


「じゅ、寿命縮まるかと思った。ケイ、先に相談してくれね? 喧嘩よりやばいって、これ。神経磨り減ったぁ」


「言っただろ? 笑えないって」


「笑えねぇどころじゃねえ。死ぬかと思った。こんなの聞いてねぇ……」


 あー確かに何が笑えないかは言っていないけど。  

 でもでもでもおかげでバイクの音が上で行き場をなくしている。どうすりゃいいか分からないんだろうな。二度としたくないけど、ぜぇえってもうしたくないけど、『バイクは階段を下りることがよっぽどの度胸が無い限り不可です』作戦は成功みたいだ。

 此処からの裏道はチャリもしくは徒歩でしかいけない。それに随分、近道にもなった。真っ直ぐ大通りに出て目的地に向かうだけだ。

 いやぁ今のアクションはマジで冷や冷やしたぜ。此処でずっこけたらとんだお笑い種だもんな! 決意した友情の円陣の直後の怪我。笑えねぇ! 仲間には大笑いされそうだけど!


 俺はヨウに上体を起こすよう頼んで、ペダルに足を掛ける。こんなところでアクションの生還に浸っている場合じゃない。俺達の目的は一つしかないんだからな。

 ペダルを踏んで力強く漕ぐ。静寂な住宅街を突っ切って、風を頬で感じて、髪を微風に靡かせて、大通りへ。そこから一直線上に道をなぞる。通行人が行き交いする中、刺客がいないかどうか警戒心を募らせながら、活気ある商店街を抜けて、ずっと先のさきのさきへ。

 店の姿がまちまちに、そしてシャッター通りに差し掛かる頃、俺は商店街外れのとある一角にある地下のバー前でチャリを停めた。スプレーで落書きされた洒落た壁と小さな衝立看板。階段と一緒に設置されている手摺を目でなぞっていけば、階段の終尾に重量感ある木造の扉。地獄の門に見えるのは俺だけじゃないよな。

 アノ向こうに……留守じゃなかったら奴等がいる。健太を含む不良チームがいる。


「静かだな……誰もいないけど」


「ちょい待ち。連絡してみっから」


 バイク組の姿が無い。既に突撃したのか? 周囲にバイクの姿は無いけど。

 俺の疑念はすぐに解消される。ヨウが弥生に連絡して状況を確認すると、向こうも刺客に襲われているみたいだ。今、振り払ってこっちに来てるところらしい。バイク同士じゃなかなか決着を付けるのは難しいからな。撒くのが一番だろ。

 出しゃばらないよう、俺達は皆が来るまで待つことにした。こうしている間にも日賀野達が出てきたらどうしよう、なんて畏怖を抱いたけど、大丈夫、一人じゃない。俺には頼もしい仲間がいる。舎兄がいる。怖いのはきっと俺だけじゃない。


(ハジメ、仇……とってくるからな)


 心中で一時離脱している仲間を想う。お前の仇は絶対に。あの悪質画像の仕返しは絶対にしてくるからな。


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