第1話 宇宙から来た友達

「おいガリ! 焼きそばパンとコーヒー牛乳買って来いよ!」

 四時間目の数学の授業が終わり、僕が脳みそに突き刺さった謎のXとYを引っこ抜きながら、机の中に教科書や筆箱をしまっていると、乱暴な怒鳴り声と共に突然後頭部に鈍い衝撃が走った。その衝撃でXとYがバラバラと机の上にばら撒かれる。


 痛みに顔をしかめながら振り返ると、そこには中学一年にして身長百八十センチを越え、ガードレールのような肩幅とプロレスラーのような強面を持つこのクラスの番長、通称「レックス」が立っていた。その隣にはレックスの腰巾着で、いかにも語尾に「でゲス」をつけそうな小悪党面をした「ツネ」もいる。


 僕の後頭部に衝撃が走ったのはレックスが僕の頭を平手で叩いたからだ。レックスは加減というものを知らない。レックスの見た目は物語に出てくる本当は優しい心を持つ可哀想な怪物のようではあるが、残念ながら優しい心を持っていないのでタチが悪い。おかげでさっき授業で習ったことが全部すっ飛んでしまった。まぁ、大して頭に入ってはいなかったけれども。


「十分以内に買って来なかったらぶっ飛ばすからな!」

 レックスはそう言って、僕の机に五百円玉を「王手!」と言わんばかりに叩きつける。


「あの、僕、今日は弁当があるから購買部には行かないんだけど……」

 僕がそう言うと、レックスはもう一度僕の頭を叩いた。おかげで三時間目の科学で習った内容まですっ飛んでしまう。


「いいからつべこべ言わずに買って来いよ!! 五分以内だからな!!」

「ひぃ! ごめん!」

 理不尽な事に制限時間はさりげなく短縮されており、僕はレックスの迫力に負けて、机の上の五百円玉を握りしめると、立ち上がって教室を飛び出した。


 教室から出るとき、背後からクラスメイト達のクスクスと笑う声が聞こえて、僕は悲しい気持ちになった。


 僕の名前は星川洋一ほしかわよういち。市立箱庭中学に通う中学一年生だ。

 勉強は苦手、運動も苦手、女の子と話すのも苦手。あとピーマンとシイタケとタマネギも苦手。というか、得意な事が特に思い浮かばない。強いて言うなら、趣味で漫画を描いているから絵がちょっとだけ上手いくらいだろうか。


 友達は僕の事を「ガリ」と呼ぶ。

 メガネをかけていてガリ勉っぽいからとか、痩せているからガリガリのガリとか、寿司で例えるならガリのような存在だからとか、中々凝った理由でガリと呼ばれている。


 ごめん、嘘をついた。

「友達は」って言ったけど、僕に友達はいない。

 僕はお父さんの仕事の都合で、中学一年になる時にこの箱庭町に引っ越して来たのだけれど、ただでさえ友達を作るのが苦手なのに、入学と同時にレックスに目を付けられてからは、誰も僕に近寄ろうとしない。


 友達さえいれば、きっとレックスから僕を庇ってくれるのにな。


 そんな事を思いながら、僕は毎日を過ごしている。

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