第41話 新色よ、来たれ

 毎年この時期は、師が走る足音が近づいてきて焦る。

 今年の成果をまとめて提出しなければならない。でも、まだ時間はあるはずなのでもう少し何か成せないか足掻きたい。その狭間で揺れ動き、結局何も進まない。

「そんなことを考えているうちは何も出来んぞ」

 ぎょっとして飛び上がる。師はとっくに後ろに来ていた。

「あの、でも、もう少し配合を試せば、良い色が出そうで……」

「まずは見せろ。話はそれからだ」

 恐る恐る見本を渡すと、ぱらぱらめくって師は頷いた。

「いい色だ、この色にしよう」

 驚いて顔を上げると、いい色だよ、と繰り返す。

 もうすぐ、新しい年が来る。僕は世界を、新しい色に塗り替える。


改行・スペース抜き299字

Twitter300字ss企画 第九十二回 お題「来る」

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