「これでチャラにしてやるよ。だってさ、高級ブランド服は高いんだぜ。せっかくプレゼントして貰ったのに、切り裂かれたら自腹で買わなきゃなんないだろ。俺の服をジョギジョギ切ったんだからさぁ、キスくらいしてくれてもよくね?」


「ふ、ふざけないで!」


 動揺した私は、勢いよくカーテンを開き病室を飛び出す。


 ナースステーションに戻っても、鼓動は早鐘のようにドキドキしていた。


 まじで、ありえない!


 唇を左手でごしごし拭った。それでも気持ち悪くて、水道の蛇口を捻り水で口をすすぐ。


 彼の入院用カルテに視線を落とす。


中居保なかいたもつ二十四歳。職業は消防士』


 ――消防士だったんだ……。

 だから熱傷を?火災現場で熱傷を負ったのだろうか?


 でもどうして私服だったんだろう。


 年上だと思っていたら、私と同じ歳じゃない。人を馬鹿にして、看護師を何だと思ってんの!


 男の欲望を満たすための道具じゃないっつーのよ!


 セクハラは、絶対に許さないから。

 看護師が大人しくしてると思ったら、大間違いなんだからね。


 私の怒りは、暫く治まらなかった。


 ――翌朝、午前八時、日勤の看護師との交代。

ナースステーションで申し送りを済ませ、帰ろうとした時、同僚の看護師、山口茜やまぐちあかねが、声を掛けてきた。


 彼女は私と同期で、同じく二十四歳だ。


「昨日、また急患だって?雫が夜勤の時って、いつも急患が入るよね。それで昨日の人ってどんな感じ?カルテを見るからには、私達と同じ年齢だし職業は消防士。ねっ、イケメンだった?」


 あいつがイケメンかって?


 そんなのどうだっていいでしょ。


 看護師にいきなりキスをするような奴だ。理性を持たない野獣と同じだよ。

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