日常
庵野虹鱒
第1話
うるせぇ。今日も隣のババァがくだらないテレビを見てバカみたいに笑ってやがる。
もう深夜12時過ぎだぞ。クソ旦那もよく、あんなバカ笑いしてる女と一緒にいられるな。
いったいどんな教育を受けてきたら、こんなに高らかにバカ笑いができるんだよ。
もう寝よう。明日も朝からクダらない会議があるんだった。
寝床に入ってもバカ女の声がしやがる。しかもクソな作りのこの賃貸は寝床の真横がバカ夫婦のトイレときている。キレの悪い小便をするクソ旦那のジョボジョボという不快な音が脳内にこだまする。
クソッ!
梅雨入りして最初の月曜日。大雨の中、自転車を漕いで駅へ行くと。クソみたいに人がいやがる。
「朝6時30分に起きた人身事故の影響でダイヤが乱れています。」
クソったれ、またかよ。 死ぬのは構わねぇが他人に迷惑をかけるんじゃねぇよ。
どっかの山ん中で独り勝手におっ死んでくれよ。
ホームに降りると人がアホみたいにいやがる。
運よく下りの電車が来て乗り込んだが、朝っぱらから何なんだよ、この満員具合は。
クソっ身動きひとつできねぇ。これ以上乗ってくんじゃねぇよ。
クソババア押すんじゃねぇよ。
掴んでいた、つり革を強制的に外され、奥へ奥へと追いやられる。空しく片手を上げたまま。
クッソ! なんとか網棚の手すりを掴んだが全く動けねぇ。
そのまま、扉は閉まり、クソみたいなトロさで電車が動き出す。
それにしても暑い。こんなに人がいるんだから、もっとエアコンをガンガン入れろや。
雨も降ってシケッってるせいで不快指数200%越えだろ。これ。
「お墓の相談はメモリアル吉田」クダらない広告を読まされながら、電車に揺られてると、伸ばした、腋から必死で顔をそらすクソババと目が合った。
なんだ、コラ。その目はよー。あん俺の腋がいやならあっちいけや。なんだ、その臭そうなツラしやがってよー。テメェの顔のオシロイの臭いのがくっせーんだよ。
むかつくわ、もっと押し付けてやるわ。オラオラ。いやならどっかいけ! クソババア。
必死で逃げてやがるバカか。テメェの面のがよっぽどきたねぇんだよ。ファンデが粉吹いてんだよ。 しかもこのババァよく見ると、息止めてねぇか。失礼にもほどがあるな。 お前、どんだけだよ。
俺の脇の何が嫌だってんだよ。 このワイシャツだってちゃんと洗ってんだぞ。 部屋干しだからクセェってのかよオラ。
「汚い」
っと聞こえたような気がした。と言うかババァの口が、そう動いた気がする。
えっ。
汚い……
瞬間。冷や汗が全身から噴き出した。動悸もする。
周りを見渡した。 今の声、誰か聞いてたか。
汚いってなんだオイ。言葉の暴力だぞ。
幸い誰も聞こえてなさそうだが、全身の汗が止まらない。絶対に顔が赤くなっている。
汗が止まらない。ドキドキが止まらない。
このババァ本当に汚いって言ったのか。この状況で声にだして言ったのか。俺の腋が汚いと。
テメェ、誰かに聞かれたどうするつもりだ。こんなに人がいる状況で他人に向かって汚いだと。
あり得ない。普通じゃない。 汗が止まらない。
俺の腋の何が汚いんだよ。
伸ばした腕を周りにばれないように顔側にひねり込む。
黄色。 あきらかに黄色。 白いはずの腋が薄い黄色。
これなのか。これは腋の肉が擦れてちょっとシミになってるだけだろ。
おい、ババァこっち向けや。ちょっとしたシミだろこれはよー。
もう一度、手すりを掴んだ腋をひねり込む。今度は腋で自分の顔を拭うようしながら、確認する。
結構、広い部分で黄色が広がっている。 クソったれ、何だよこれ。ちょっと肉が擦れたのが付いただけだろうが。
クッソ。ふと視線を奥に向けるとブッサイクなデブの女子高生と目が合った。瞬間、デブが目をそらしやがった。横にいる髪がボサボサで栄養状態の悪そうな同じ制服の女となんか言ってやがる。
よく、聞こえないが ワキ キタナイ と言っている。
ヤセ不細工の声がかすかに キモい と聞こえた。
笑ってやがる。 俺のことを見て絶対に笑った。
顔が紅潮しているのがわかる。 また汗が噴き出してきた。動悸。
キモイ って言ったのか? 不細工ども キモイっていったのか俺に向かって。
ザケンジャねぇよ。 何が悲しくてテメェラ不細工どもにキモい 呼ばわりされなきゃいけねぇんだよ。
テメーの顔のがよっぽど迷惑だろ。あんだ、その前髪はよ。パッツンとか似合ってねぇーんだよ。そーゆのは、男子の8割以上の信任を得た女がやっていいもんなんだよ。
テメーみたいな、相撲部屋で白いマワシをつけた幕下力士みたいなツラのやつがやっていいんじゃぇんだよ。泣きながら先輩力士に投げられてろよ クソブス!
駅に着いた瞬間に腕を下した。逆の腋を見てみた。同じだ。
【カクテルパーティー効果】
カクテルパーティーのように大勢の人が会話している中でも、自分に関する言葉や興味のある言葉は聞き取れる現象。
日常 庵野虹鱒 @issikimiyuki
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