第18話 攻撃スキル
俺は剣を奴から受け取った後、《
内心、俺はこいつに恐怖していた。
自分の攻撃は悉く回避され、スキルも魔法も使っていないのに俺にダメージを入れて来やがった。
しかも《ディフェンシブ》で防御力を上げているにも関わらず、右脇下がじんじんと鈍い痛みがある。
執拗に同じ箇所を攻撃していたのは、これが狙いだったんだ。
しかし、何故ただの素手での攻撃が《ディフェンシブ》を貫通してダメージを与えてくるのか、俺にはさっぱりわからねぇ。
訳わからねぇから、奴に対して恐怖を抱いている。
底知れぬ強さもそうだが、奴の黒い瞳はまるで漆黒の闇なんだ。
あいつの眼を見ていたら俺の全てが飲み込まれそうで、それが本気で怖いんだ。
それに戦っている時、時折獲物を見つけたかのような獰猛な笑みを浮かべやがる。
このままだったら肉体的にも精神的にも、完全に打ちのめされて負けていただろう。
だが、奴はミスをした。
俺に攻撃スキルを撃たす機会を与えちまった事だ!
アルカナ3に到達した人間しか知らないが、アルカナ3になると汎用スキルが連続二回使用可能で、効果をそのまま乗せられる。
《
アルカナ3は重ね掛け出来るから、《
俺はまだ一回しか使用しておらず、まだ汎用スキルの効果は残っている。
重ね掛けした状態での攻撃スキルは、誰にも止められねぇぞ!!
「後悔しやがれ、俺に攻撃スキルを撃たせた事を!!」
「吠えるのはいいから、さっさと撃ってきたらどうじゃ?」
呆れ顔で言い返してきやがった。
俺の攻撃スキルを見て、いつまでそんな余裕そうな顔してられるかな?
俺の攻撃スキルはレベル2に到達している。
汎用スキルならば、レベル2の恩恵は効果が増えるだけだが、攻撃スキルは違う。
攻撃スキルの場合は《
《
間違いなく死ぬだろうが、関係ねぇ!
この町で俺に敵う奴なんて誰もいない、誰も俺を捕まえられないんだ!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺の身体を、赤いオーラが包む。
まるで勢いよく燃え盛る炎のように。
これが《
そして俺はさらに、《
しかしこの重ね掛けは相当身体に負荷がかかる。筋肉が悲鳴を上げているかのように痛み出す。
それに右脇下の痛みも増す。
だが我慢できる範疇だ、奴を殺すまで耐えればいいだけだ!
俺のスキルが発動したのを確認した野次馬共は、俺の攻撃スキルを知っている。
だから奴の真後ろにいる事を避ける。
さぁ、後五秒だ。
全てを重ね掛けした事により、俺の攻撃は眼で捉える事が出来ない神速の攻撃となった。
俺にこんなチャンスを与えた事を後悔しやがれ!
いや、あまりにも速すぎるから、後悔する前に死んでるだろうがな!
奴の顔を見る。
ちっ、まるで子供がオモチャを見て喜んでるみたいに目を輝かせていやがる。
他の野次馬は悲観している表情なのに、何故てめぇはそんな表情でいられるんだ!
わからねぇ、全く以てわからねぇ!
こいつは本当、何者なんだ!
〇秒。
溜めが完了したのを感じた。
俺の最高の一撃を放てる!!
持っている剣を振り上げ、スキル名を叫んだ。
「くたばりやがれ、《
この《
汎用スキルで俺の身体能力全てを向上させたこの一撃、絶対に避けられねぇ!
俺は剣を力一杯振り下ろす。
轟と地面を切り裂く音を出しながら、俺の斬撃は目に見えない速度で飛んだ。
だが――
「これは素晴らしい! そして恐ろしい! 食らったら大変な事になっておったな!」
奴は、回避していた。
表情を変えず、余裕綽々で。
「なっ……?」
信じられずに、情けない表情になっていると思う。
だが有り得ないんだ。
見えない攻撃を軽々と避けたんだ。
有り得ない、あってはならない。
俺が呆然としているところを、奴が満足げに話し掛けてきた。
「さて、素晴らしいスキルを見る事が出来たし、そろそろ終演と行こうかの」
何故避けられたかなんてどうでもいい!
奴が地面を蹴って、スキルを使っているんじゃないかって位の速度で俺に向かってきている!
アルカナゼロなんかに、何故か根拠もなく殺されると感じてしまった。
軋む身体に鞭を入れて、剣を構え直して迎撃の準備を完了させた。
「終わるのはてめぇだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
奴が目の前に来た瞬間、俺は気合いを入れて叫んで剣を横に薙いだ。
重ね掛けした斬撃だ、アルカナゼロ如きが避けられる訳がねぇ!
しかし、俺の斬撃は虚しく空を斬っただけだった。
奴は中腰になって俺の攻撃を避けやがった。
さらにすでに奴は攻撃モーションに入っていた。
奴は右足を軸に身体を回転させ、右手甲で裏拳を放った。
全力で空振りしちまったんだ、回避なんて難しくそのままがら空きの右脇下を直撃。
辛うじて直前に早口で詠唱を行って《ディフェンシブ》を発動させた。だが、ミシリという嫌な音が鳴った。
嫌な痛みが身体を走った。
打撃によるダメージは一切ない。だが、身体の内側が痛み出した。
大丈夫、まだ我慢できる痛みだ。
俺は次の攻撃を放とうとしたが、俺にその機会を与えてくれなかった。
気が付いたら、左掌が右脇下に直撃しており、浅く食い込んでいる。
そして、ボキボキと何かが折れた音がした。
もう、耐えられる痛みではなかった。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ようやくわかった。
こいつは、骨を折りにきやがったんだ!
《ディフェンシブ》を貫通させてどうやって折ったかわからないが、多分ずっと脇下を狙っていた事が原因なんだろう。
あまりにも痛いし、口から血が逆流してきやがる。
俺は立つ事が出来ずに膝から崩れ落ち、倒れて痛みに悶絶した。
奴は、ただ満足げに俺を見下していた。
「最大の感謝を。お主のおかげで、攻撃スキルをこの眼で見る事が出来た。まぁ速すぎて一瞬しか見えなかったがの。今回は感謝の気持ちを込めて殺さないでおこう」
は?
ちょっと待て、こいつは俺の《
一瞬でも見えたのかよ!?
一体、こいつはどんな目をしていやがるんだ。
……完敗だ。
完全に、俺が、アルカナ3である俺が、アルカナゼロに打ちのめされた。
悔しい、こんなに悔しい思いをしたのは久々だ。
「……俺の、敗けだ」
俺はぼそりと、敗北宣言をしたんだ。
この涙は痛みによる涙じゃねぇ、敗北の悔しさによる涙だ。
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