第38話 残念G少女、国王と対面する

お食事中、または、G耐性スキルのない方は、絶対に閲覧をお控えください。


―――――――――――


 タリランさんから玉座の間に続くと教えられていた大扉は、左右に分かれすっと開いた。

 赤じゅうたんが道のように続く先には数段高くなった場所があり、そこに玉座が置かれていた。

 いかにも生意気そうな少年が座っている。

 部屋には、他に何人かの貴族と騎士がいた。

 騎士の一人がこちらに気づき、近づいてくる。


「どなたかな?」


「レイチェルと言います」


「……さて、覚えが無いのだが」


「今日、王様とお話する予定でした」


「そんなことは、聞いておらぬが」


「大事な話があるのです」


「分かった。とにかく陛下にうかがってみよう」


 騎士は玉座に近づくと、ひざまずき、少年に何か話しかけていた。

 少年が何か言うと、玉座の周囲にいた騎士たちが、みな身じろぎした。

 さっきの騎士がこちらに来る。


「どうぞ、こちらへ」


 私とドンは、赤い絨毯の道を玉座に近づいていく。

 玉座と私たちを隔てるように、五六人の騎士がさっと横一列に並んだ。


「お前、何者だ?」


「名前を尋ねるなら、まず自分から名乗りなさい」


「あはははは、面白いヤツだ。私が国王と知っての振るまいか?」


「国王だろうがなんだろうが、礼儀を守れない人はダメだね」


「きさまっ! 陛下になんという事をっ!」


 騎士で一番年かさの、白い口髭を生やしたおじさんが、まっ赤な顔でそう言った。


「あははは。ドマーク、控えておれ。我が名はエリュシアス。キンベラ王国の国王だ。で、お前は?」


「私は、ド、ドリームワールド国のレイチェル姫よ」


「ドリームワールド国? 聞いたことがないな。その国の姫が何の用だ?」


「あんた、城下町のケーキ屋を城の中に入れたって本当?」


「ん? そんな話か? ケーキ屋、ケーキ屋……ああ、そういえば、そんなことがあったな」


「なんで、そんなことをしたの?」


「なぜって? 大好きな『ニャンコちゃんケーキ』を、独り占めするためだが」


「えっ? そんな理由!?」


「当たり前だろう。自分がお気にいりのケーキを、好きな時、好きなだけ食べるのがなぜ悪い?」


「それなら、注文すればいいだけの話じゃない?」


「この前、騎士を使いに出したが、『ニャンコちゃんケーキ』が売り切れていた。そんなことにならないようにしたまでだ」


「ああ、あの騎士、あなたが……まあ、それはこっちに置いといて、と。じゃあ、いつでもそのおニャンコがあるように、お店に言えばいいだけじゃない」 


「お前には、分からぬか? 下々しもじもが食べたくて食べたくて、それでも食べられぬものを、私だけがむさぼり食らう悦楽が」


 変だよ!

 タリランさんが言ってた通り、この人、普通じゃないよ。


「とにかく、ケーキ屋への命令はとり消して」


「なぜお前などの言うことを聞かねばならん」


「いいから、とり消して!」


「誰がとり消すか。もう話は終わりだ。ドマーク、こヤツらをたたき出せ」


「はっ、ただ今!」


 白い口髭の騎士が、こちらへ近づこうとする。

 

「動かないで。動くと大変なことになるわよ」


「なんじゃと?」


 口髭のおじさんは、落ちついている。


「あなたたち、お城の地下に棲んでいる魔獣を知ってる?」


「そんなことは、どうでもよい。すぐに出ていけ」


 おじさんが、私の手を取ろうとする。


「私が答えてあげる。それはジャイアントコックローチよ。ドン、準備!」


「うん、お姉ちゃん」


 バスケットボールくらいの黒い玉が十余り、宙に現れた。それらの玉は、この部屋に入るとき、ドンが見えなくしておいたのだ。


「な、なんじゃ、あれはっ!」


「ふふふ、ジャイアントコックローチの肉団子よ」


「げっ!」


 私に近づいていた白髭おじさんが、ヨロヨロと後ろへ下がる。

 

「ドマーク! 何をしておる。そいつらをさっさとたたき出せ!」


「し、しかし、陛下、あ、あれを……」


 ドマークが指さした、宙に浮く肉団子を少年も見たようね。


「げっ! なんだ、あれはっ!? どうなってる。おい、全員、こヤツらをとり押さえよ!」


「「「はっ!」」」


 騎士たちが私とドンに殺到する。

 こうなれば、もうしょうがないわね。


「喰らえ、ゆるキャラ団子っ!」


 私の合図で、騎士たちの頭がズポンズポンと黒い団子に覆われていく。

 彼らは、物も言わずに倒れた。


「お前たちっ、こヤツらを何とかせぬか!」


 少年が貴族たちに叫ぶが、彼らはすでに背中を見せ、部屋の出口へ走っていた。

 

「こやつらめっ! 玉座の間を汚しおって!」


 玉座の少年が立ちあがり、キラキラのワンドを構えた。

 その顔に、特大の肉団子が命中する。


 ズッポン


「。。。」


 頭部を黒い団子に覆われ、ゆるキャラ風になった少年が、フラフラと足を進める。


 パタリ


 少年は、すでに横たわっている騎士におり重なるように倒れた。

 玉座の間で立っているのは、私とドンだけとなった。


「お姉ちゃん、この黒いボールどうする?」


「うーん、そうねえ。あっ、いい事を思いついたわ」


 私はドンに作戦を伝える。


「面白いね!」


 ドンは、ニコニコ笑って仕事をしてくれた。

 私は玉座に書きおきを残し、ドンのお姫様抱っこでお城の窓から飛びだした。


 ◇


 しばらくして、白ヒゲの近衛騎士ドマークが目を覚ます。


「う、ううう。ひどい夢じゃった」


 上半身を起こした騎士ドマークは、周囲に仲間の騎士が倒れているのを目にした。


「ま、まさか、現実じゃったかっ! 陛下は……陛下はご無事かっ!? むっ、これは誰じゃ? やっ、まさかこれが陛下かっ!?」


 彼は、倒れている少年に駆けよった。

 少年の姿を間近で目にし、改めてギョッとした彼は、しかし、少年をゆり起こそうとする。


「陛下、陛下、しっかりしてくだされ!」


 少年王が、ゆっくり目を開ける。


「なんだ、ドマークか。かつてない程、酷い夢であった」


 少年は上半身を起こし、周囲を見まわす。


「こやつら、なぜ倒れておる?」


「陛下、お忘れですか? レイチェル姫です。ヤツがやったのです!」


「なにっ! さっきのは、夢では無かったのかっ!」


 少年は玉座に置かれた紙に気づいた。 

 

「これは、なんだ? なになに……」


『ケーキ屋を元に戻せ。お前にニャンコちゃんケーキは似合わない。プリンセス・レイチェル』


「なんだ、これはっ!」


 少年は、青くなっていた顔がまっ赤になった。

 怒りに任せ、手紙をびりびりとひき裂く。  

 それを丸め、足元に叩きつけた。


「へ、陛下……」


「ハア、ハア、なんだ、ドマーク!」


「あの、おぐしの色が……。それに、その服は、一体?」


 部屋を走りでたドマークが、全身が映る長い鏡を抱え戻ってくる。


「ご覧ください」


 少年王は、鏡の中を見て驚いた。

 頭に黒い眼帯を乗せた黒髪の少年が、黒いマント、黒い服、黒いブーツを身に着け立っている。背中には、大きな黒い剣まで背負っていた。


 これは誰だ?


 鏡の向こうにいる少年と目が合う。  

 あの緑の瞳、まるで自分と同じじゃないか。


「げっ! こ、これは、私かっ!」


「はっ、髪の色まで変わられているから、最初、私も気づきませんでした」

 

 少年は自分の髪に触れる。

 その手に、べっとり黒いものがついた。


「な、なんだこれは?」


 少年は最悪の事態に思いいたったが、どうしてもそれを信じたくなかった。

 そんなはずはない。

 そんなはずはないのだ。

 きっと、何かの間違いだ。

 

「へ、陛下っ、こ、これはっ」


 ドマークが手にしているのは、少年が背負っていた剣の一部だ。

 それは、何か黒いものを固めて作ってあるように見えた。

 その端から突き出したものを見た途端、少年は泡を吹き倒れた。


「陛下っ! 陛下ーっ!」


 ドマークが、少年の身体を揺する。

 その身体からは、黒い着衣がポロポロこぼれ落ちた。

 

「いったい、これは!?」


 そして、彼も目にしてしまう、あるモノを。

 

「。。。」


 ドマークも、意識を失い倒れる。

 その右手には、少年と彼の意識を失わせるに十分なものが握られていた。

 それは、ある大型昆虫の触角だった。


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