第46話 ラグナリアの守護神

 ウルファの体は黄金の光に包まれていた。そして何だかわからないキラキラと輝く光の粒が彼女の周囲を浮遊していた。あれがオーラってやつなのか。


 さらさらの金髪はショート系。透き通るような白い肌。キリリとつり上がった鋭い目元。凛として美しい少女だ。小柄で小学生のような体形の彼女は、何故かセーラー服を着ていた。白い襟に紺色の二本線。えんじ色のネクタイと紺色のスカート。そう、アレは俺たちが小学校の頃の制服、葉月が着ていた制服に違いない。


「もう大丈夫だ。私が来たからな」

「ウルファ」

「壮太、泣くなよ。後でたっぷり可愛がってやるから」


 泣くなよって……。

 情けない事に、俺の両目から涙が溢れていた。不覚にも、ウルファの援軍に心底感動してしてしまったらしい。


「そこの虎娘」

「エリザベスよ。エリザって呼んで」

「ではエリザ。雑魚は任せる。この剣を使え」


 ウルファが放り投げた黒い鞘の剣。それをエリザが受け取ったのだがずっしりと重そうだ。日本刀のようだが短い。脇差しだ。エリザはその脇差しをすらりと抜いた。短めの刀身はぼんやりと光を放ち、その周囲をキラキラと光る沢山の粒が浮遊していた。多分ウルファのオーラが刀身を包んでいるんだ。アレなら何でも切れそうな気がする。


「これは良い剣ね」

「そうだな。葉月の実家にあったので拝借した。私はそういった繊細な剣は性に合わんので、コレだ」


 いつの間にかウルファは二本のなたを持っていた。長方形で刃渡りが30センチくらいの作業用の刃物だ。確かにアレは繊細じゃない。


 そうか。ウルファは葉月の実家に行ってセーラー服を着せられ武器を揃えたのだろうが、どうしてセーラー服と武器が繋がるのかよくわからない。葉月の家は農家なので、斧や鎌や鉈、すきくわなどの道具はゴロゴロしているし、トラクターなんか何台もある。そして、葉月の父親は猟友会で、猟銃を何丁も所有している。葉月がガンマニアなのは父親の影響だと聞いた。そして祖父は刀剣を何本も所持していた刀剣マニアだったのだ。その、祖父のコレクションの一本をウルファが持ってきたのだと思う。


 セーラー服を着た小学生体形のウルファが、鉈を二本を持って構えている。とても戦士とは思えない少女が鉈を構えて戦う姿は非常にシュールだ。そして彼女の全身から放たれている金色のオーラは敵に無言の圧力をかけているようだ。その証拠に、昆虫のような巨大な化け物となったカリア・スナフは全く動けずウルファを睨みつけていた。


「さて、そこな化け物。私はラグナリア竜王親衛隊のウルファ・ドーズ・ミリアだ。命乞いをするなら聞いてやろう」

「命乞いだと? 私を殺せるというのか? お前のようなチビが?」

「ああ、瞬殺してやる。それとも、そこにうじゃうじゃついている手足を一本ずつ引きちぎってやろうか?」

「できるものか」


 これはカリアの方がビビっているようにしか見えない。ウルファは平然と鉈を構えているだけだ。かなり余裕があるように見えた。


「ところでウルファさん」

「何だ? 壮太よ」

「その、ひらひらのセーラー服で戦うんですか?」

「セーラー服は日本の女子の戦闘服だと聞いたぞ」

「それ、多分、間違った情報です」

「そうなのか? セーラー戦士とかスケバン戦士とかいたらしいじゃないか。後は〝かんむす〟?」

「うーん……確かにセーラー戦士のお仕置きってのはありますけど、スケバンの方は戦士じゃなくて刑事デカですし、艦娘かんむすは艦船の擬人化なので戦士とはニュアンスが異なりますね。むしろ兵器です」

「戦士じゃなくてデカ? かんむすは兵器?」

「はい兵器です。デカとは刑事……警察です」

「兵器とは武器の事か? 警察とは憲兵の事か?」

「そんな感じです」


 俺の説明にウルファはイラついて来たようだ。


「ややこしいぞ! 細かい事など気にするな!」


 一喝された。確かに、この非常時においてそれは細かい事なのかもしれない。しかし、あのセーラー服が破れたり汚れたりしてもいいのだろうか。俺はそっちの方が気になるのだが。


「何をグダグダ喋っているのだ。お前たちは皆殺しだ。そこにいる全員を喰ってやる」

「野蛮だな、お前は。喰う事で何を得るのか? 残された者からの怨嗟を受けるだけだぞ」

「くくく。他者を喰らう事で力を得るのだ。特に、お前のような重厚なオーラをまとう者を喰らえば、私の力は格段に向上するだろう」


 遥か20メートルの高さからせせら笑うカリアの顔は引きつっているようだ。この世界での竜神族の強さ、その親衛隊長であるウルファの強さを知っているからだろう。


「ふむ。野蛮な吸魂族か。千年も前に我がラグナリアからは追放されたはずだが」

「お前たち竜神族への恨みは消えぬ。今、その肉体と魂を喰らいつくしてやる。かかれ!」


 ウルファの直上、数百メートルだろうか。鎧のような装甲を持つ黒くて丸い昆虫人間が爆弾のように急降下してきた。そいつらはズドンと轟音を立てて地面にめり込み、自分の体の破片を撒き散らした。その一つが俺の頬を掠め、軽く出血してしまった。


 もちろん、ウルファはその全てを華麗に回避していた。そして彼女に向かって飛んだノコギリのような腕を鉈でブッ叩く。


 第二陣が急降下し始めるのと同時にウルファは素早くカリアの足元に駆けこんでいた。そして手に持った鉈を振りぬく。あの巨体を支えている四本の脚の一本が切断された。左手前だ。巨体のカリアはぐらつきながらもカマキリのような大鎌を振り下ろすのだが、ウルファはそれを難なくかわした。まるで瞬間移動をしているような素早い動きで。


 その大鎌が二本とも地面に突き刺さったのだが、ウルファはそのタイミングでカリアの両腕を切り落としていた。


 苦痛に呻く化け物は、その、胸の部分の大きな口から緑色の液体を吐き出した。ウルファはそれもさらりと交わし、化け物の腹を横一文字に切り裂いた。その液体は強烈な悪臭を漂わせて地面を溶かしている。強い酸なのか。しゅうしゅうと白い煙を吹き出していた。



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勇者イチゴと竜の王——暇つぶしに適当な魔法陣を書いてみたら、本当に女勇者(見習い)を召喚してしまったというお話 暗黒星雲 @darknebula

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