第36話 不老不死の秘宝
「彼女は美しく、また、医師としてとても優秀だった。もちろん、エイリアスの精霊魔法の使い手でもあったのだが、その魔法は殆ど見せてはくれたなかった。見世物ではないと言ってな」
「そうですね。魔法は見世物ではありませんので、必要な時にしか使いません」
エドラ・ルクレルクの話に相づちを打ち、受け答えをしているのはシャリアさんだ。
「彼女、フィオーレに何度も言われたよ。だが、私は既に老いており先は長くない事を悟っていた」
「はい」
「そんな私は不老不死の秘宝を求めたのだ。もちろん、フィオーレは反対していたのだがな」
「それでもエドラ様は不老不死を求めたのですね」
「ああそうだ。そこで12名の息子に探させたのだ。秘宝をもたらした者へノードリアを譲ると」
「その秘宝を持ち帰ったのがラウルだった」
「そうだ。あ奴は年若かった。私が66歳の時にできた子だからな。そんな若輩者が持ち帰るとは思ってもみなかったのだ」
「勇敢で武勇に優れ、しかも知恵のある殿方」
「そういう話であったな。私は周囲の者がお世辞を言っているだけだと思っていたのだが、その話は真実だった」
「はい。存じております」
「そうだったな。君はラウルの婚約者だったな」
「ええ。今は一方的に婚約破棄されておりました」
「馬鹿な息子だ。私は最初、ラウルの嫁にフィオーレはどうかと考えていたのだ。しかし、あ奴はフィオーレの姉である君、シャリアを選んだ」
「ええ、そうです。かなり強引な求愛でしたが」
「アイツは私の若い頃によく似ていてな。中々のハンサムさんだっただろう」
「ええ。年下でしたが、あの情熱にほだされました」
シャリアさんは年下が好きなんだ。世話好きみたいだし、そこは何となくわかる気がする。
「しかし、アレが持ち帰った秘宝が問題だったのだ」
「その秘宝とは?」
「南方の島国であるゴトラに伝わる永遠の生命を得られる秘宝だ。森の巫女がその秘宝をノードリアへともたらしたのだ」
「ゴトラ……森の巫女……聞いたことはありますが……エイリアス魔法協会にも詳しい情報はありません」
「そうだろうな。その、森の巫女がもたらした秘宝は本物の不老不死実現していたのだ」
マジか!
不老不死なんてあるはずがない!!
俺は暗くなってきた周囲を監視しながらも、老人、エドラの言葉を否定していた。
「それは植物化なのですね」
「察しが良いな。流石はフィオーレ自慢の姉だ。そうそう、彼女はことあるごとに君、シャリアの自慢話をしていたのだよ。自分よりも特別優秀なのだと。容姿も頭脳も、医術も魔法も、自分には到底かなわないとな」
「そんな事はありません。彼女、フィオーレは私とよく似ていますが、彼女の方がより女性的な体形で、胸も大きかったし、何よりその医療にかける情熱は私以上のものがありました。十年後、いや数年後には私を追い越していても不思議ではなかったのですが……」
「そうかもしれないな。フィオーレは職務に忠実で、恋愛など興味がないと言った風であったしな。その彼女の言葉を無視した私は愚かだったのだ。その結果がこの体なのだよ」
植物化する事で、そのDNAは増やし続ける事ができる。例えば桜、ソメイヨシノだ。アレは交配によって増えるのではなく、接ぎ木で増やしているのだと聞いた。つまり、指を切ってその指が本体になり、また次に指が本体になる。本体が死んでもその指が生き残って本体になるのなら死なないと同じって理屈なんだろう。接ぎ木を動物に例えるのは何やら強引で残酷な気もするが、理屈としてはそういう事になるのだろう。
しかしそれは、永遠の生命と言って良いのかどうか怪しい。そもそも、植物化すると自由に動けなくなるわけだし、人としての意識が保てるのかどうかも分からない。自分の指が生き残ったとして、その指に自分の意識が移動するのだろうか。それとも、指は指で別の意識となるのだろうか。そもそも、植物に人のような意識が宿るのか。疑問は尽きない。
「そんな体になるとは思ってもみなかった」
「そういう事だ。森の巫女、ソアラ・ウーと名乗った女は、全身が緑色の植物のような体をしていた。それで500年以上生きていると。その言葉をそのまま信じてしまった私は大馬鹿者だったのだよ」
「ラグナリアには植物系の魔人がいる。それは数百年生きながらえる、大変長寿な種族であると聞いております。ソアラはその種族だったのでは」
「そうかもしれない。そうではないかもしれない。体の色を変えていただけなのかもな。しかし、私はソアラのような体になっても、あと数百年生きられるのであれば受け入れようと思っていた。しかし、彼女、森の巫女がもたらした秘宝、それは〝命の雫〟と言う名だったのだが、体を植物化する黒魔術の産物だったのだ。恐らくソアラは利用されていただけだと思う」
「ならば首謀者は誰ですか?」
「君ならもうわかっているのではないかね。他にはいない」
「カリア・スナフ?」
「そうだ。あの女だ。アレはソアラの付き人としてノードリアに来ていた。当時は小柄な黒髪の少女だった。異様に鋭い目をしていた」
黒幕がカリア。あの女がシャリアさんの妹、フィオーレさんを殺して体を乗っ取った。シャリアさんが淫乱な魔女だという噂を流したのもアイツだろう。実際に淫行を繰り返していたのかもしれない。そしてこのリドワーン城主のラウル・ルクレルクはどうなんだろうか。カリアに取り込まれただけなのか、それとも、カリアと共に何かを企んでいるのか。
それは多分、例の勇者戦争に関わる何か。イチゴの体に隠されているらしい勇者の何かを得ようとしているのは間違いないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます