第30話 地下の拷問部屋
目の前に見えている城、それがリドワーン城だろう。物凄く高い城壁に囲まれている。中の建造物はほとんど見えないが、石造りの塔と石造りの屋根が見えた。それはヨーロッパにある古城といった印象だ。奥側は山を背にしており、その山肌にも幾つかの構造物が見える。この城は堅い守りが特徴なんだと思う。
メチャ高い城壁をくぐると、正面に石造りの立派な城が見えた。ただし、一体感のある建物ではなく、増改築を繰り返したような、後から付け足したような構造物が複雑に絡み合った建物だ。俺たちは正面ではなく右側奥の方へと連行された。右手に
「大丈夫かな?」
「多分。彼等には罪が無いし、軍馬としても非常に優秀だから。ある意味、貴重な戦力よ」
そりゃそうだ。ザーフィルは人語を解し他の馬よりも速い。むしろ、戦力とする方がもったいないほどの貴重な馬だと思う。
「無駄口を叩くな。さっさと歩け」
兵士の一人がイチゴ、いや、イチゴに扮しているシャリアさんの豊満な尻を銃で小突く。そして脇や胸元まで。その傍若無人な兵士を睨みつけたのだが、他の兵士から銃床で後頭部を殴られた。
「生意気な顔をするな。大人しく従え」
だそうである。シャリアさんは無理向いて俺を見つめ頷いた。それは大人しくしてくれという意味だろう。
母屋、立派な城から少し外れた山の斜面に沿うように、これまた頑丈そうな石造りの建物があった。俺たちはこじんまりとした石造りの建物へと連れていかれた。
「ここは態度の悪いお客様用の宿泊室だ。喜べ」
分厚い木の扉は金属製の板で補強されていた。ここは牢屋かと思ったがそうでもない。入り口から奥へと真っすぐな廊下が通っており、その両脇に扉が並んでいる。ホテルかアパートか、といった造りだった。その廊下には何かの照明が自動で点灯したのは、ちょっと高級な印象がある。お客様用と言うのは本当のようだ。
左右に20室くらい並んでいた客室のどれかに押し込められると思ったのだが違った。突き当りにある階段から下へと降ろされた。地下室だ。
地下といっても石の壁に石の床、天井も石材のようだ。そして、魔法で自動点灯した照明が俺たちを照らした。
観音開きの扉をあけると、そこにはいくつかの丸いテーブルと、それを囲むように椅子が並べられていた。まるでレストランのような配置だ。
そして、奥側、俺の感覚だとステージがあるべき場所には暗い空間が広がっていた。俺とシャリアさん、エリザの三人はその暗い連れていかれた。そしてここでも照明は魔法によって自動点灯したのだが、俺はその場に散らかっているモノを見て絶句してしまった。エリザもシャリアさんも俺と同じ気持ちみたいだ。
「何これ」
「酷い……わね」
「……」
血まみれの拘束台。
太い角材で作られたエックス字状の磔。
その他、俺にはよくわからない拷問器具が並んでいる。
壁には大型のハサミやノコギリ、小刀、ペンチのようなものなどが飾られているし、天井には滑車もある。そして衝撃的だったのが、爪の付いた指や剥がされた頭皮とそこから生えている毛髪。骨のかけら。固くなった肉片なども転がっていた。
ここはまごう事のない拷問部屋だ。そして、隣のレストランはその様を眺めて楽しむため設置されているのだ。
「信じられないわね。王都からほど近いリドワーン城の中にこんなものがあったなあんて」
気丈なエリザでさえ声が震えていた。
「ここは王都防衛の為の非常に重要な城塞なのです。更に、非常時には王族の避難場所にもなる場所でもある……不謹慎極まりない」
シャリアさんの言葉にはかなりの怒気がこもっていると感じた。城塞ならば拷問部屋くらいあるのが普通なのかもしれない。しかしここは、その拷問を娯楽として楽しむために作られた部屋なのだから。誰だって怒りが湧いてくるはずだ。
そしてもう一つ。王国の防衛の要となる城塞にこんなものがあるなんて、城主が知らぬはずがない。むしろ、城主ががこの拷問部屋の主と考える方が自然だ。この城の主、ラウル・ルクレルクはシャリアさんの婚約者という話だった。シャリアさんはかなりの精神的なダメージを受けているのではなかろうか。
「ああ。もうちょっと綺麗にしとけよ。あの、馬鹿女」
ナチスのコスプレ男、バジル・ルブランがぼそりと呟いた。
馬鹿女とは……何の事だろうか。
バジル・ルブランの合図で俺とエリザは壁にぶら下がっている鎖につながれた。例の、粘土が固まったような魔法使い用の手錠を上から鎖で吊るされた格好になる。
シャリアさんはというと、拷問部屋の中央からぶら下がっている鎖で両腕を吊るされた。イチゴの豊満な体形が丸わかりになって、少しときめいてしまった。
こんな非常事態に何を考えているのだろうか。しかし、俺はイチゴの豊満で形の良い巨乳から目が離せなかった。自分の浅ましい精神性に少し嫌気が差すものの、やはり美しいおっぱいは正義なのだと自分自身に言い聞かせた。
「手に入ったようだな」
地下の入り口、レストランの方から男の声がした。そこにはいかにも貴族といった風の派手なマントを羽織った男が立っていた。
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