第28話 城塞都市の銃士隊
遠くに城壁が見えるのだが、それはメチャクチャ横幅があった。多分、両側に迫る山と山を繋ぐ城壁で、長さは1000メートル以上ありそうだ。中央部には川が流れていて、そこはアーチ状の橋になっているのだが、橋の下には丸太を格子状に組んだ
目の前の街道は真っすぐ城門へと向かっていた。かなりゴツイのが遠目にもよくわかる。今は開いているものの夜になればしっかりと閉じられるのだろう。
街道の両側には集落があり、多くの民家が立ち並んでいた。武器の生産で有名だというだけあって、鍛冶屋が何軒もあった。煙突からは黒い煙がもくもくと立ち上がっていたし、カンカンと鉄を打つ音があたりに響き渡っていた。
鉄の匂い。何かが焦げる匂い。煙の匂い。それらが漫然と混ざり合って独特な雰囲気を醸し出している。
「このあたりは活気がありますね」
「そうね。ここは鍛冶の街だから。この辺りは農機具とか包丁とかお鍋とか、農家で使う物、家庭で使う物をたくさん作っているわ」
俺の質問にシャリアさんが答えてくれた。
「そうなんですね。剣とかは何処で作ってるんですか?」
「城壁の向こうよ。城内には名工が集まっているから、刀剣の聖地とも言われているわ。毎週バザーが開かれているから、そこでも見ることができる。見たい?」
「そうですね。俺はあまり刀剣類に興味はなかったんですが、さっきエリザも短剣を使ってたし、どんなものがあるのか興味は出てきました。僕の国では、剣と言えば片刃で反りがある日本刀の事なんです。結構美しくて美術品として展示されているものもあったと記憶しています」
「片刃なのね。ここは片刃よりは両刃の直刀が多いかな。もちろん片刃の剣、反りのある剣もあるんだけど、使っている人は少ないと思う。正規軍も騎士団も、普通は両刃の片手剣ね。もちろん大型で重い両手剣を使う剣士もいるけど、数は少ないわ」
「そうなんですね」
やはりここは剣と魔法のファンタジーな世界なんだ。俺たちの世界で使われている銃火器はないのだろうか。
「ところで、銃というか、鉄砲とか、そういうのはないのですか?」
「うーん。あるにはあるんだけど、数は少ないわね。あなたたちの世界の銃、拳銃とかライフルとかそういうのはないわ。あるのは単発で先込めの銃なの。私たちの世界では魔法使いが多いじゃない。銃を使うより魔法の方が断然強いの。だから、銃火器は少ないしあまり開発もされていないのよ」
「そうなんだ。俺たちの世界にあるような銃を見た事はあるんですか?」
「実物はないけど、映画なんかで見た事はあるわ」
そういえば、エリザはゴジラシリーズの映画を見た事があると言っていた。シャリアさんも刑事ものとかの映像ソフトを見た事があるのだろう。魔法で異世界との行き来ができるまでは何とか理解するとしても、映像ソフトを動画再生するのは難しいのではなかろうか。100Vの電源なんて無いだろうから、TVもレコーダーも稼働しない……いや、スマホやタブレットで再生できるじゃん。ブルーレイディスクやDVD何かの映像ソフトが無くても。という事は、アルちゃんの魔法で動画再生アプリを生成するとかできたりするのかもしれない。それはどんな物なのか。エロいのも大丈夫だったりして。そして気になるのがあのモザイクだ。あの大魔法使いのアルちゃんなら、AVの邪魔なモザイクを消し去る魔法とか使えたりして……いや待て待て。心を読めるザーフィルの背で、こんな邪な事を考えてはイカンぞ。
と、思った瞬間にザーフィルが歩を停めた。もしかして邪な心根がバレた? のかと思ったがそうではなかった。そこは城門前の広場で、野球場三つ分くらいありそうな広さがあったのだが、何故か兵隊に囲まれていたのだ。
その兵隊はヘルメットを被りゴーグルを付けていた。茶色っぽい迷彩の戦闘服を身に着け、両手にアサルトライフルを抱えていた。俺の拙い記憶によれば、アレは旧ソ連製のAK47だと思う。バナナ型の曲線状になっている弾倉。ストック部分が木製でグリップ部分とは別になっている。そしてそのストックの位置が銃身軸線より低い。直線状になっている米軍のM16との違いは顕著だ。どうせ腰に吊るしている拳銃も旧ソ連製のトカレフTT33に違いない。
「詳しいな」
またザーフィルに心を読まれていた。
「いえ、俺の知人に銃火器マニアがいるんですよ。そいつは何故か旧ソ連製のアレコレを溺愛してまして、特にトカレフなんかは安全装置まで排除した簡素な構造が好きで好きでたまらないっていうヤツなんです」
「ほう。男子によくある武器マニアなんだな」
いえ、ザーフィルさん。一般論としてはそうかもしれませんが、そのマニアってのが一応女子の新井葉月なんで……。
「ねえ壮太君。あの銃って連発式なのよね」
シャリアさんに聞かれた。さっき、この世界の銃の話をしたばかりだ。それは先込め式の単発銃だったはずだ。
「アレはアサルトライフル、機関銃です。弾は1秒で10発くらい撃てるはず」
「それは厄介ね。何でそんな銃を持った兵士がここにいるのか、そして、その兵士が銃を構えて私たちを包囲しているのか」
「理由はわかりますか?」
「全くわかりません」
そりゃそうだろう。シャリアさんの婚約者が城主を務めるというこのリドワーン城に近づいてみたら、異世界の兵士……つまり俺たちの世界の兵士に囲まれるってのはやっぱりアンビリバボーだよな。
兵士の中から、一人の将校らしき人物が歩み出て来た。そいつだけグレー色の軍服を着ていて、その上には黒い軍用のコートを羽織っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます