第67話 希求

 

 娘を自殺で亡くした母親が相談にやってきた。今日はこれで三件目だ。

 僕はカウンターでコーヒーを淹れながら耳を傾けた。

 どうやら毎晩、娘が枕もとに立つようになったという。

 十二才の娘は何かを言いたげな顔で母親を見下ろし、やがて空気に溶けるようにして消えるというのだ。

「あの子は、私に何を訴えようとしているのでしょうか……?」

 僕はカウンターから出てコーヒーを置いた。母親は悲しそうな目でカップを見つめる。

「私はどうすればいいのかしら」

 その質問には答えず、僕は戻って腰を降ろした。そして本の続きに目を落とした。

「まず、あなたがしっかりするべきだと思いますよ」

 頬杖をつく僕の冷めた言葉に、彼女は驚いたように顔をあげる。

「そうですね……おっしゃるとおりですわね……」

 そして肩を落として帰っていった。

 翌日からはもう、彼女の姿を見ることがなくなった。

 やはり、自分の責任だと落ち込んでいたようだ。

 僕にはよくわからないが、母子なりの問題事があったのだろう。

 そんな母親に同情したわけではないけれど、僕はあの日、本を読むふりをして彼女のことを気にかけていた。

 数日後、常連客の一人が店を訪れたとき、彼女はすでにこの世にいないことを知った。

 僕は表情を変えず適当に相槌を打っておいた。自分とはさして関係のないことだから、特に感情が動かなかったのだ。

 そしてその日の夜、寝室で休んでいたら、母子が正座で現れた。

 怨むような陰鬱な目が四つ、こっちを黙って見下ろしている。気味が悪かったが、それよりも眠りを邪魔されたことが嫌だった。

 僕が無機質な声で問いかけると、二人は喉が潰れた奇妙な声で、口々にこう言った。

「……ココは寒くテ、トってモ寂しい場所デス。あノ世は想像以上に地獄デした。そレに私たちダケでは寂シいのデす」

「だカラね、こッチでまた、いっシょに暮らソウよ。オトうさン」


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