6-9 今回の目的
「二人の話を聞いていて、頭の中の霞がとれたような気がするよ」
急に、あやかさんが、口を開いた。
「おじさんの目的、高校のときに考えたまんまだったからね…。
おじさん自身のことを含めて、動機や目的、確かに、もう一度、見直す必要がありそうだね。
で、美枝ちゃん、話の本題は?」
あっ、そうか、美枝ちゃんの話、まだ本題に入っていなかったんだ。
こう言う、話しの流れというか、その本筋というもの、すぐに忘れちゃうというところが、おれ、あるんだよな…。
うん?もうわかってるって?
これは、これは…。
で、話しの本題は…、
「有田さんから、連絡が入りました」
また、単刀直入に、美枝ちゃん。
有田さんて、おれはまだ会っていないけれど、別邸の1階、西端にある部屋の住人のはずだ。
有田
「いつなの?」
「電話が入ったのは、ホクと、ここに来る直前です。
お嬢さまに電話をかけたあとすぐに…。
明日、もう少し詳しく解析したのを送ってくれるそうですが…。
昨日からですが、この敷地の周囲を、何度か回っている車がいるとのことです。
その車の情報はメールの添付ファイルできました。
今日で、2日目ですので、取り急ぎ警戒を、という感じなのでしょうね…」
「昨日からなのね?」
と、あやかさん、確認。
「はい。昨日、ここを数回廻ったので、変だと言うことで対応を始めていたそうです。
そして、今日も確認できたので、とりあえず連絡をくれたということです」
「そうなの…。来るのかしら…」
「先ほどの動機がよくわからないので…、ですから、目的が…」
「そうよね…。仮にわたしが目的でも、リスクは大きいはずよね」
「でも…、1つの読み筋でもありましたよね…」
横から、さゆりさん。
「ええ、わたしが狙いだというところでの、究極の手段だから…」
「ここには、妖結晶はないんですか?」
おれ、つい、脇から口をはさんでしまった。
そうしたら、あやかさんとさゆりさんが、顔を見合わせた。
「ないわけじゃ、ないけれど…。
う~ん…、…。
そうか…、おじいさんちゃんか…」
お父さんたちの家には、厳重に管理された大きな金庫のような部屋があるらしい。
場所は秘密。
その耐火構造になっている部屋の中には、さらにしっかりとした金庫があって、そこに、『湖底の貴婦人』の次の位置付けとなる妖結晶のエメラルドが仕舞ってあるらしい。
これは、大事なものは分散して仕舞っておくという、おじいさんのお母さん、だから、あやかさんのひいおばあさんが強く主張した、比較的新しい、櫻谷家のルールによる保存方法らしい。
何が起こるかわからない…、関東大震災と第2次大戦からの教訓なんだとか。
ただし、その保存場所を知るのは、あやかさんのご両親とおじいさんだけ、もちろん、あやかさんとさゆりさんも知ってはいる。
「あそこは安全だと思っているから、おじいちゃんにとっては、秘密でも何でもないんだろうねぇ…」
「会長様が山根社長にお話…したと?」
美枝ちゃんがあやかさんに聞いた。
会長はもちろんあやかさんのおじいさん。
でも、美枝ちゃんが話すときには、会長に、様が着いていた。
「可能性としてはね…。
う~ん…、でもね…、考えてみると、相手がおじさんだと、親父さんが何気なく話した可能性すらあるね…。
わたしは、お母さんに『これは特別な秘密なのよ』と言われて育ったけれど…。
超極秘事項だと思っていたの、わたしだけなのかもしれないね…。やれやれ…」
「お嬢さまとは、秘密を共有する人たちの範囲が違っていたのかもしれませんね」
さゆりさん、柔らかく話をまとめた。
ひとつ頷いて、美枝ちゃん、
「いずれにせよ、こちらも動き出す必要があると思いましたので、さきほど、連絡を受けてすぐにですが、浪江君に警戒の強化を頼んでおきました」
「それは安心ね」
「浪江君には、車の情報も転送しておきました。
それに、田一さんに、浪江君を助けてもらおうと思いまして、お願いメールを出し、了解の返事も来ています」
「ありがとう…。完璧な動きね。
ふ~ん…、まさかとは思っていたけれど、本当に、来るかもしれないのね…」
「妖結晶がはいっている金庫の場所、つかめているんでしょうか?」
美枝ちゃんがあやかさんに聞いた。
「それこそ『本当の秘密』のはずなんだけれどね…。
でも、管理会社もはいれない一角ということで、範囲を絞れることは絞れるのよね。
高校生の頃かな、『それで秘密って言えるの?』って聞いた覚えがあるわ」
「まあ、櫻谷社長は、周囲の管理で、そこまではたどり着けないとみているんでしょうけれど…」
と、美枝ちゃん。
ちなみに、櫻谷社長はあやかさんのお父さんのこと。
「お嬢さまを狙っているという可能性も、無視してはいけないと思いますよ」
さゆりさんが言った。
それはそうだ。
相手の目的は、まだわかっていない。
あわよくば両方、どちらかでも、なんて可能性もある。
でも、ここの状態、外からじゃそんなに詳しくわからないと思う。
ネットで、地図と比較する航空写真を見ても、うまくぼかしてあるし…。
でも、相手が相手…、そうか…、空中写真を撮って、詳しく解析している可能性も、あることはあるんだな…。
警備のレベルはどうなんだろう…。
普通なら、見当もつかない…かな?
でもな…、これも、警備会社から、何とか資料を入手できれば、そうでもないか…。
ただ、あやかさんが独自でやっている警備体制は、誰も知らないはず。
さっきの、浪江君が集中し始めたと言うものだけれど…。
うん?相手は、こういう可能性も予測は、しているのだろうか?
しないわけはない、のかな…。
そうなると…、やっぱり、襲撃する立場からすると、その前に、一度、中にはいって、様子を見てみたいだろうな…。
様子見か…。
うん? 失敗したら様子見…。
と言うよりも、失敗しても、様子がわかる上に、相手に動揺を与えることができれば、それはそれなりの成果、なんて考えると…。
「様子を見るために侵入する…って言うの、ありませんかねぇ?
こっちが、どのように対応するのかを見るような感じでの…」
ちょっと、話が途切れた空白に、また、つい、余計なことを言ってしまったおれ。
あやかさんといい関係になって、口が軽くなったのかもしれないな…。
ある意味、あの記憶がチラチラしていて、まだ、のぼせているからね。
しかも、昼に、アルコールも入ってしまったし…。
おれ、ずっと以前から、迂闊なところが多い人間だから、みんなの前では、軽い発言は控えなくっちゃと、そう思って暮らして来たんだけれど…。
ここは、なんだか、自由に話をできる雰囲気だから…、つい、な…。
「なるほど…。その可能性、なくもないですねぇ…。
意味がないことのようでも…、う~ん…。
なるほど、それ、思いのほか、おもしろい見方ですね…」
思いもよらず、美枝ちゃんが褒めてくれた。
軽く言って、まずかったかなと思うと、どうも、そう言うのって、美枝ちゃんに受けるみたいだ。
「それって、襲撃を受けて、親父さんが、妖結晶をどうするか、という意味で?」
あやかさんが、美枝ちゃんに聞いた。
「ええ、それも含めて、どのような反応をするのか…。
もちろん、うまく盗むことができれば、それが一番いいんでしょうが…。
できなければできないで、こちらに圧力をかける…」
「圧力ね…。
もう、充分かかっているんだけれどね…」
「そうですね。でも、向こうは、こちらが、ここまで警戒していることは知らないんじゃないでしょうかね…。
とは言え、今まで手を出さないでいるところから、そう甘くはない、とも見ているんでしょうけれど…。
ですから、一度入ってみれば、内部での警戒の状態もつかめるかも…とか…」
美枝ちゃん、いろいろと考えながら答えている。
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