夏の終わりに


蝉の死骸が横たわる。

もの悲しさを置き去りに

夏が終わろうとしていた。


彼らは地上へ出るために

十年以上を要するけれど、

彼女がここへ来るまでに

何があったのかなんて、

僕には正直、どうでも良くて。


過去を知ろうとは思わない。

尋ねるつもりもない。


今、ここに君がいる。

それだけが、それこそが全てだ。


いつも冬を纏っているような君に、

脆さと儚さを感じていた。


手を伸ばして触れてしまえば、

粉雪のように消えてしまいそうで。


そんな君を何とかしたいと

僕の中で何かが音を立てた。


殻を破るように

冬の衣を脱ぎ捨てて、

生まれ変わってゆく

君の笑顔が見たいんだ。


僕がここへ来たのはきっと、

陰りを帯びた君の瞳へ、

光を見たいと望んでしまったから。

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