夏休みには夢の国まで

 

 夢の国なんてあるはずがない。


 実家へ続くあぜ道を辿っていると、

 不意に幼い記憶が蘇った。


 先日のこと。

 小学五年の息子が夏休みを利用して、

 二週間ほど実家へ泊まると言い出した。


 想い出の景色を

 息子までもが辿るという出来事は、

 不思議でいて嬉しい。


 あの子に、

 人生まで同じ道を歩ませようとは思わない。


 僕が叶えられなかった夢。


 それはそれで

 生涯に苦みを与える要素のひとつとして、

 胸の奥へしまっておくのが丁度いい。


 それぞれの人生。

 体は小さくとも、一人の立派な人間。


 男子、三日会わざれば刮目して見よ。


 そんな言葉がまさにぴったりだ。


 玄関先に現れた息子は真っ黒に日焼けして、

 白い歯を見せ笑っている。


 夢の国。こんな所にあったとは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る