60.雨


 雨は、私にとって不幸の象徴だった。

 両親の事故、恋人の裏切り、職場での大失態。

 その全ての日で、外では大量の雨が降っていた。


 だから雨は嫌いだ。

 私にとって、よくない事しか起こらないから、天気予報で雨マークがつく度に憂鬱な気分になる。




「それなら雨の日に、たくさんいい思い出をつくろうよ」


 しかしそんな私に、彼はそう言って手を差し伸べてくてた。

 そして初めての提案に戸惑う私を、勢いよく暗い場所から引っ張ってくれると、たくさんの思い出を一緒に作ってくれる。

 私は雨の日にだけ現れる彼と過ごすのが、いつしか楽しみになっていた。


 このまま、ずっと雨が降っていればいいのに。

 そう思い、彼に感謝を伝えた。


「そう、それなら終わりだね」


 しかし返ってきたのは、優しい言葉じゃなくて心の底から安心している顔。


「君が雨を好きになってくてたのなら、僕の役目は終わりだ。さよなら」


 そう言って、彼は私の元から去った。

 私は、何て事をしてしまったんだという後悔の念に襲われながら、必死に手を伸ばす。

 しかしその手は空を切って、彼に届くことは無かった。

 それでも彼のおかげで、私は雨を少しは好きになれた気がする。












 そんな、よくわからない妄想を浮かべながら、私は最期の時間を過ごした。

 私には助けてくれる人は、ついには現れなかった。


 だから雨の日が来ることに絶望し、命を絶とうとするのも当然の結果である。


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