30.眼鏡
祖母から譲り受けた眼鏡は、度を直さなくてもぴったりだった。
それは近視も乱視も酷い僕にとって、とても助かる。
普通に作ろうとするとお金がかかるし、ぴったりなのがあるなら使った方が賢い。
デザインは古臭いが、壊れていないからそれでいい。
僕は眼鏡を使い続けるうちに、とても気にいっていた。
「その眼鏡どこで買ったの?」
今まで話しかけてこなかった女子の実麗さんから、突然そう言われて僕は驚いてしまう。
その子は可愛いと評判だが、いつも1人でいるため誰もが話しかけたくても出来なくて、モヤモヤしている。
そんな高嶺の花の彼女に、まさか僕も話しかけられるなんて夢でも見ているのではないだろうか。
間近で見る整った顔にぼーっとしたしてしまっていたが、慌てて表情を切り替えて笑いかけた。
「これ?えっと、祖母の形見なんだ。」
本当は、もらったと言うのは恥ずかしい。
それでも買ったと言って、センスがないと思われるのは嫌なので本当の話をする。
実麗さんは特にそういったことを気にするタイプじゃないのか、馬鹿にはしてこず感心した顔をする。
「良いな。私もそういう眼鏡が欲しかったの。」
そんなに褒められると逆に、彼女のセンスを疑ってしまう。
この眼鏡がいいものとは思えないから、お世辞だとしても言いすぎだ。
僕は苦笑いして、それでも一生に1度あるか分からない話せる機会なので会話を続ける。
「でも実麗さんって視力悪いっけ?もしかしてコンタクトなの?」
「悪くないわよ。でもその眼鏡には、とても興味があるの。」
なんだか会話がうまくいかないな。
そうは思ったけど、僕はメガネのずれをなおして彼女を見る。
とても近い距離にいて、いい匂いがこちらまで漂ってくる。
なんだかドキドキしてしまって、僕は緊張した。
さらに彼女は近づいてきて僕の顔すれすれに、あと少しで口がくっつきそうな距離までになる。
それなのにまったく動じた様子もなく、彼女は僕を見ている。
いや違う。
僕ではなく、ただただじっと眼鏡を見ていた。
それが分かった途端、僕は言い知れぬ恐怖を感じて彼女から離れる。
心底残念そうな顔をした彼女は、しかしもう近づかず淡々と言った。
「それはあなたには宝の持ち腐れよ。私にくれれば有効活用してあげるのに。」
僕はそれには答えず、その場から離れた。
背中にかけられる狂った笑い声は、しばらくの間耳に残り続ける羽目になった。
彼女があんなにも狂った様になるなんて、この眼鏡に何があるのだろうか。
僕は家に帰り布団に寝転ぶと、眼鏡を外した。
どこからどう見ても、何の変哲もない古臭いものだ。
僕は不思議に思いながら、特に考えることなくそれをまたかけた。
その瞬間、鋭い頭の痛みと共に目の前が真っ暗になる。
何だ?
何が起こった?
殴られているのではないかと思うぐらいの痛み。
そのせいで、自分は殴られ殺されたのだと思った。
しかしすぐに痛みも、目の前の暗さも回復し、僕は恐る恐る瞳を開く。
そこには、予想だにしていなかった光景が広がっていた。
何も無い。
真っ白で、僕以外に誰もいない狭い部屋。
どうして自分の部屋からそんな場所に移動したのか、見当もつかなくて途方に暮れてしまう。
それよりも、ここからどうやって出ればいいのだろうか。
その考えに思い至った僕は、辺りに出口がないか探し始める。
壁を叩き、大声を出す。
しかし壁が壊れることはないし、僕の声は誰にも届いていない。
一体、どうすればいいのか。
僕は絶望の叫び声をあげた。
私は大家さんに妹だと偽って、とある部屋に来ていた。
中に入った途端、男の変な臭いが鼻につく。
ハンカチで鼻をおさえて誤魔化したが、早く目的のものを見つけようと進む。
私にとっては嬉しいことに、部屋は狭くすぐに見つかった。
それを手に取り、辺りを見回して笑う。
「あらま。使い方を知らなかったみたいね。だから私が持った方がいいって言ったのに。」
私はちゃんと使いこなすからね。
絶対に届かない言葉を言い残して、その場からさっさと立ち去る。
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