ジュリウス・セピールの境遇

 ジュリウス・セピールは淡泊すぎる子供だった。


 何かに感動したことがない。綺麗だと思ったことはない。人に興味を示さない。

 関心を全て勉学に注いでいる、と母に笑われたことがある。そう言われた当初は、妙に腑に落ちた、と今でも覚えている。


 表情が抜け落ちている、と祖母に気味悪がられ、何を考えているか分からないと、父親から恐れられ、弟からは雰囲気が怖い、と怯えられ。それに対して傷付いたことも気にしたこともなかった。


 母だけだった。ジュリウスを普通の子供として扱ったのは。自分の子供だから、という理由ではなく、母は良くも悪くも子供を同等に扱う人だった。

 自分の子供、自分に懐く他人の子供、自分に対して反抗的な他人の子供。それらに関係なく、平等に接することが出来たのだ。


 そんな母がいたからこそ、ジュリウスは家族に対して希薄なだけで済んでいる。

 家族でもそのような感じだから、他人に対しては微塵も興味がなかった。クラスメイトの顔も名前も覚えない、覚える必要性を感じない。覚えていてもすぐに頭の隅に追いやる。ジュリウスにとって生徒は、心底どうでもいい存在だった。


 必要最低限の会話しかしなかった。それは同性だけで、異性には全く干渉しなかった。あちらは自分と接点を持ちたがっていたが、無視していたら諦めてくれた。

 嫌われたのだろう、とその時は思った。他人にどう思われていようがどうでもよかったので、そのままにしていた。


 それは違っていたと気付いたのは、案外早かった。先生の言付けを預かり、一人のクラスメイト、しかも女子に話しかけた時であった。

 その直後、その女子生徒は他の女子生徒から苛めを受け、心の病にかかってしまい、退学に追い込まれた。


 それで自分は何故か異性から、好意的に見られていると気付いた。理由は分からなかった。

 苛められた女子生徒に対して、別に罪悪感は抱かなかった。ただ吐き気がした。


 その女子生徒は、ジュリウスのように浮いた存在ではなかった。ごく平凡な生徒で、友人らしき女子生徒と楽しげに会話していたのを、朧気ながら記憶していた。

 それなのに、ただジュリウスが話しかけただけで。しかも、ただ一言伝言を伝えただけなのに。その女子生徒は、排除された。


 人間の醜悪な部分を見せつけられ、気分を悪くした。

 そんな人間に極力関わりたくもなかったし、二度も同じことが起きるのは面倒だと、今まで以上に人と関わることを拒んだ。


 先生も似たようなことを考えてか、伝言を頼まれることは二度となかった。

 これで自分に関わろうとする、馬鹿な奴はいなくなる。


 これで、ようやく静かになる。

 そう信じていた。

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