第87話 イネちゃんと護衛任務

 あれから数日、毎日イネちゃんが護衛扱いとして3人の話し合いに参加していた。

 ムーンラビットさんが言うには一応教会からの依頼ってことで以来料金は出ると言ってくれたけど、正直特に何もやることもなく眺めているだけだったんだけど。

「それではこの先教会を通じて王城と連絡を取りつつ、ヴェルニアの備えを強くするためトーカ領……場合によっては異世界と直接交渉も行う必要があるというお話で問題はないでしょうか」

「異世界との交渉は難しいだろうが、反乱軍の持つマッドスライムを含めた戦力のことを考えれば頼ることも考える必要があるからな、あちらの都合や、教会の努力を無碍にしかねないが……」

「マッドスライム対策に私以外の淫魔が参加できない以上、一番楽に対応していたイネ嬢ちゃんの力を集団で運用できるあちらさんを頼るっていう考えは間違ってるとは言えないかんなぁ、一応交渉したの私やし、もしやらざるを得なくなったら手助けはするんよ、本当のところあまり好ましくはないけどな」

「異世界にとっては無関係のことだからな、ムーンラビット殿はそういう意味ではこちら側にかなりの配慮をしていただいている。あくまで可能ならという次善の策に留めるつもりだ」

「そもそも成功する可能性は低いですからね……奇跡を戦略に組み込むべきではないでしょう」

「そうやね、まぁ兵站の一部は教会が工面程度はするんで次善じゃなく最後の手段まで後退させてくれたら、実際交渉する私としてはありがたいけどね」

 とこんな感じの話し合いで終始して、具体案はあまり決まらない。

 ちなみにヨシュアさんとティラーさん、キュミラさんの3人でミルノちゃんとウルシィさんの行方を調べている。

 ミミルさんはそっちとこっちの連絡役で、自由に動けるようにってギルド待機の形を取りつつもリリアとオオル君のお手伝いをしている。

 正直イネちゃんの場違い感が凄いのでこの要人護衛、もうちょっと増員して欲しくもあるんだよね……。ってあれ、誰か忘れているような。

「各地を走って情報を集めてくれているジャクリーンさんには本当、無理をさせてしまっています。反乱軍の支配領域にも潜入して調査していただけるのは、現時点の私たちにはとても助かりますからね」

 あぁジャクリーンさん……素で忘れてた。

「あの者は元々ヴェルニア伯を略取しようとした者だったと記憶しているが……本当に信頼はできるのか」

「できますよ、何度かトーカ領の開拓町のタタラ様とササヤ様に色々と確認していただきましたので。最も私としては共にヴェルニアを奪還して頂いた方ですので、その確認はシード様のように外を納得させるために行ったものなのですが……役に立ってよかったです」

「身元不確かなんは傭兵、冒険者ならある程度普通やからな、その辺りは追跡調査する形にしときゃええやろ。今はそれよりも……」

 ムーンラビットさんがイネちゃんを見てるぅぅ。

 いやまぁ話しの流れ的に最終手段としてあっちの世界の力を借りるとか言ってたから、イネちゃんに話し振られるんだろうなぁと多少は覚悟してたけど……。

「私とイネちゃんがちょっとあっちの世界に行って少しだけ話してくるんよ、もしかしたらー程度とは伝えておくけど……ま、無理で当然、あちらさんにしたら政治的なものに介入する気はサラサラないやろうし、人道名義だとしても勇者2人が滅却した連中につけ入れられる材料にされるやろうからな」

「はい、こちらはそれを組み込まない足場固めを進めておきます。足場がなければ奇跡が起きたとしてもまともに動けませんからね」

「人道目的であっても、本来なら他国の軍を招き入れるのはリスクがあるからな。ヌーリエ教会が相互協力を行っている相手であるのなら多少はマシではあろうが、それでもリスクはリスク故、その奇跡は無視した上で組み込める余地は残しておこう」

 それでもすがりたい気持ちになるってことだよなぁ、キャリーさんとシードさんがお互いさっきからそんな感じだもの。

 でもそれもそうか、正規軍が万全であってもこっちの世界の装備を考えたらマッドスライムの相手は面倒どころの話しじゃないもんね、ヴェルニアを包囲していた軍の中にも数m……いや遠目で確認できるくらいだったから10m近い個体もいるわけなんだから、投石器とかバリスタみたいな攻城兵器か、ムーンラビットさんがやったように魔法で一気にって形でしかできないもんね。

 実際シードさんは不意をつかれたらしいって言ってもお城、防衛準備も整えていたところで自身が抜け出す余裕しかなかったってことだもんね。

 あ、ちなみに率先して逃げたんじゃなく、侍従さんたちが無理やりシードさんを逃がしたらしい。

 普段自分の政策に難癖つけてばかりいた側近さんですら逃がすために影武者を引き受けたらしいし、生粋のカリスマタイプらしいんだよね。

「んじゃあっちの世界に行くのは私とイネ嬢ちゃん、後1人くらい欲しいんだが……リリアはこっちで教会と畑、ヌーカベの世話があるかんなぁ」

「ヨシュアさんかティラーさんでいいんじゃないかな、礼儀とかの面では無難だし」

「それならモヒカン君にしよっか、実際のところあっちの世界で成人年齢のほうが都合ええし……確か18やったっけ」

「うん、ちょっと前までは20だったらしいけど」

 ちなみにティラーさんはその風貌からは想像できない24歳。ぱっと見で30、見る人によっては40って言われかねないのにびっくりだよね。

「じゃあそれで、ヨシュア坊ちゃんはまだ16だって言ってたしね。とりあえずこの後ギルドまで行って私の護衛って名目で依頼を出すんでイネ嬢ちゃんよろしくなー」

 そのよろしくにはなんだかティラーさんへの説明も含まれてる気がする、ムーンラビットさんはそういう人だし。

「それではそちらはよろしくお願いします……ですがイネさんとムーンラビット様が抜ける穴は大きいですね……」

「あ、その間はササヤの奴に往復を日常にさせるんよ。あいつだって久々に息子に会いたいやろうし丁度ええねん」

「え、いいんですか?」

 え、いいの?

 ってキャリーさんとイネちゃんの思考が完全一致しちゃったよ。

「ええねんええねん、あいつオオルのこと猫可愛がりしてるし」

 ……全然想像ができない!

 しかしこれでイネちゃんは1度あっちの世界に帰ることになるのか、まぁ冒険者さんを初めて数ヶ月、お父さんたちとは何度か会ってるけどジェシカお母さんとステフお姉ちゃんは久しぶりだし、少し楽しみかも。

 イネちゃんの自覚はなかったけれど、案外ホームシックになってたのかもね、まぁ実際コーイチお父さんのパン屋さん2階のイネちゃんの部屋に立ち寄る機会は無いんだろうけれどさ。

「出発はいつにするかねぇ、関係各所に連絡を入れる必要があるんで即座にってわけにはいかんから、最低でも1週間は見てくれればと思うんよ」

「関係各所って、あっちの世界のお役所とか政府とか?」

「それとイネ嬢ちゃんの実家な」

 ん、イネちゃんの聞き間違いかな、今イネちゃんの実家に連絡入れるとか聞こえたんだけど。

「こっちの世界に関して知識を持ってる場所じゃないと宿泊許可が中々おりんのよな、そういう意味ではイネ嬢ちゃんがいると円滑に進められそうやからな、さっきの人選はそういうことなんよ」

「つまりイネちゃんの部屋で寝る気満々ってこと?」

「別にイネ嬢ちゃんの父親のベッドでもええんよ」

「ちょっとそれはやめとこう、イネちゃんのベッド使っていいから」

 流石に絵面とかいろんな方面で危ないことになりそうだから、ここは仕方ない。

 まぁ完全にイネちゃんが自分からOK出すように誘導されたんだろうけれど、断ったところで無駄だと思うしイネちゃん的必要経費ってところで別にいいや。

 でもムーンラビットさんってどうやって連絡とるんだろう、教会のネットワークを利用して電話一本って感じにできるんだろうか。

 その可能性もなくはないだろうけれど、こっちの世界であっちの世界とまともにやり取りしているのってヌーリエ教会だけだしね、イネちゃんとしてはあまり想像つかないけれど何かしらあるのかもしれないよね。

「イネさんにとっては帰郷ということでしょうか、あぁでも本来は……」

 キャリーさんがそこまで言って表情を曇らせる。

「まぁこっちの世界のイネちゃんの故郷は、ケイティお姉さんがなんとかしてくれるみたいだし大丈夫だよ。あっちの世界ではあるけれど、イネちゃん的には確かに帰郷ってことになるから、キャリーさんの言うとおりで間違いないって」

 っていう感じに答えたけれど、キャリーさんは……何かに気づいたようにハッとした感じに俯きつつあった顔を上げて。

「そういえばイネさん、通信ができる道具をお持ちだったんでは。それでお父さん方と連絡は……」

「あぁスマホアレなら無理だよ、民間の回線でギルドと提携する形で通信網の構築自体は進んではいるけれど、町とかの間が長いから直接は無理なんだよ。開拓町近辺なら通信できるんだけどね」

 イネちゃんのアレコレから10年で、ヌーリエ教会とかと話し合っていた時間が長くってそのへんのインフラ設備は最近になってようやくちょっと作れるようになってきたらしい。

 まぁそれでもあっちの世界とは比較にならないくらいに凶暴な動物が居たり、ゴブリンみたいなどこに現れても不思議じゃない生物が居たり……果ては空の害獣であるドラゴンが電波を中継する鉄塔を狙う可能性を考えるとどうしても難しいらしい。

 衛星を利用するにしてもまず、人工衛星を打ち上げないと受けないからってことで全然進まないらしい。

「んじゃ、そういうことで今日の会合は終わりってことで……今日はリリアのところで美味しいものでも食べよっかねぇ」

 拍手を1回だけ打ったムーンラビットさんがまとめる言葉を言ってこの場を締める。

「確かに、既に方針は決定してはいたが雑談になってしまったからな。最も我としてはこういう雑談こそ重要であるとも思うが……やはり入りにくいな」

「ま、この場で唯一のおとこのこやしな、でも私はいつでもウェルカムなんよー」

「いや、遠慮しておこう」

 シードさんとムーンラビットさんのやり取りで皆が笑って、全員一緒にリリアのいる教会まで雑談をしながら歩いて向かった。

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