第86話 イネちゃんとこれからのお話
「さて、ちょっと事件はあったもののこれからの事を話し合おっか」
ムーンラビットさんの部下不参加宣言に皆ポカーンとして少し経ってから、これもムーンラビットさんが話を戻した。
というよりはあの女の人が暗殺しに来なければこれを話し合っていたんだからようやく本題に戻ったって感じかな。
「そ、そうですね……あの暗殺者やヨシュアさんの精神耐性の件は今は置いておいて今後の反乱軍への対応を話し合いましょう」
いち早く反応したのはキャリーさん、ともあれこれでようやくこれからどうするか決めるための最初のお話になるんだね。
「んじゃまずは各々が今保有するリソースの開示しよっか。教会側は相手がハイロウを持ち出している可能性が高い以上淫魔は出せないんよ、その代わり教会の聖地防備軍の2割ほど出立準備中でおよそ3万やな。装備に関しては全員ヌーカベの毛糸で編んだ物で武器もヌーカベの骨を使った武器……まぁヌーリエ教会軍の標準装備やな」
古代中世の文明レベルの世界で、3万の軍が全体の2割ってかなりのものだよね。
後ヌーカベ素材の装備って一体どんな物なんだろう、いや想像だけでも凄そうだって感じはするけど。
「ヴェルニアは現時点で守るのも不足している状態です。食料に関してはヌーリエ教会の助力を得られたことで多少の余裕が生まれましたが、人的、物的な面で全てが足りていません」
つまりは食べ物以外何も足りてないってことだねぇ、それだけヴェルニアを奪った前の領主が無能だったってことなんだろうけど。
「我に関しては更に何もないな、我が身一つしか無いがその時が来れば前線指揮を執ることはできるが、現時点で我ができることは特に無い……いや、公爵閣下や他の侯に対して話を通すことはできるか」
えーっと、3者の発言をまとめるとこれ、貴族側は何もできないし、教会側は準備中だけど連携をしようと思ったら治安維持の遊撃くらいしかできないってことかな。
「んでギルドに関しては通例通り、傭兵を雇い入れるくらいなんだが……金もないんよな、2人とも」
その言葉に貴族の2人は首を縦に振る。
まぁ状況を考えれば仕方ないよね、ムーンラビットさんもそう思っていたようで何もないという2人の言葉に対して特に何も言わず、考える。
「とりあえず教会に連絡入れて、その上で連携を取れるようにする……けど出兵人数を減らして遊撃という名の治安維持はしたほうがええかな」
「何から何まで申し訳無い……」
「ま、遥か昔に敵対していた2つの勢力が手を取り合うっていうのはええんでない。現時点だと教会の負担のほうが重いが、その時が来れば自らが矢面に立つって宣言してるし後払いってことで」
「でもさ、偉い人で指揮をするっていうのなら多少は安全の確保しておかないといけないよね?」
と3人の会話につい気になったことを口に出してしまう。
「イネ嬢ちゃん、私たちはそのへん織り込み済みやから安心しなさいな」
あ、そうなんだ……当たり前すぎるところは飛ばしてって流れだったのね、それは申し訳無い。
「それに冒険者であるイネ嬢ちゃんたちは本番では参加できんしなぁ、傭兵登録もしてたとしても、戦争はやる気ないんやろ」
「それはまぁ、イネちゃんは世界を周るつもりで便利だから両方登録した感じだし」
「僕達もです……でもウルシィとミルノを助け出すのは僕達冒険者もできますよね」
「人助け部門は冒険者の分類やからそれはまぁ、こっちとしてもリソースを回さなくて済むのはありがたいが……出世払いになると思うんよ、ヴェルニアに滞在しているんならわかると思うけど」
「それでもいいんです、2人は僕の仲間ですから」
「ヨシュア坊ちゃん、それ無賃を要求されるから私は今の言い方あまり関心せんのよー、まぁ個人的には好意を感じるけどな」
えーイネちゃんは早速置いていかれました、助けるのはやぶさかではないしいいんだけれど、ムーンラビットさんの言うとおり無賃となると少し厳しいかもしれない。
イネちゃんの装備、お金かかるからなぁ……。
「ヨシュア坊ちゃんはまぁそれでいいかもしれんがイネ嬢ちゃんの今の顔を見てみ、凄く複雑そうな顔してるじゃろ。異世界の装備はお金がかかるって聞いたことあるかんな、無賃で完全赤字だとすると純粋にこっちで生まれてこっちで育った冒険者と比べて食うに困る事態になりかねんと思うんよ。ヨシュア坊ちゃんはそういう犠牲を強いてでも助けたいんか?」
ムーンラビットさん……割とあっちの世界のこと把握してない?
ともあれ今のムーンラビットさんの言葉で、ヨシュアさんがバツが悪そうな顔でイネちゃんを見てきた。
「まぁ、イネちゃんの場合ナイフと体術以外で戦う場合は基本お金が発生しちゃうのは事実、かな」
銃弾やグレネード以外にも、剣とかと比べて銃って構造上しっかり整備しないと自分の命に関わるからね、暴発的な意味で。
そういう点では剣とかよりも維持費が高いとも言えるかも、イネちゃんは出来るだけお金がかからないような整備方法とかをお父さん達に叩き込まれてるからマシではあるけれど、それでも弾代だけはどうしようもないからね、P90の弾ってパラペラムとかと比べたら高いし。
「そうか……イネ、ごめん」
「いや先走るほどにヨシュアさんにとっては重要なことってことだからね、一応イネちゃんにはお父さん達もいるし……ある程度は大丈夫でもあるから」
「そういえば異世界の武器のお値段っておいくらなん」
ムーンラビットさん、こういうタイミングでそういうお話はやめない?
「……参考に聞かせてもらえるかな、イネ」
ほらーヨシュアさんも聞きたがっちゃったじゃん!
えーっと、購入は日本円にレート変換して計算されるから……主要武器だけでいいよね?
「とりあえず……えーっと、紙とかないかな、レート計算とかもしないといけないから……」
イネちゃんが時間を稼ごうとそう言うと、キャリーさんがすぐさまメモ帳……って羊皮紙とかじゃなく植物繊維の紙なんだ……って関心している場合じゃない!
うぅ、全方面に逃げ道を塞がれてしまった以上書かないといけないよなぁ、まぁもうこのお話の流れだと仕方ないするから半ば諦めがついてきたけど。
「えっと、イネちゃんの計算だとこうなりました……」
日本円からこっちのお金に今のレートで変換して装備と弾薬の金額を記載して、どれだけ持てるのかとかも書いて合計金額まで記した、ほぼ明細っていうにふさわしいものを見せると、ムーンラビットさん以外の動きと表情が止まった。
「イネ、本当にごめん!これは本当、本当にごめん!」
そしてこのヨシュアさんである。
「本体が一番お金かかるだけでね、弾薬はまぁそれほどでも無い……よ?」
イネちゃんがそう言うと今度はキャリーさんが。
「矢どころか魔法触媒クラスだとは……イネさんはそんなものをあんなに発射して……」
こっちは目を抑えちゃってる……、こっちの食物とか宝石ってあっちの世界だと高値で売れるから大丈夫って言いそびれちゃってるけど……今言うべきかな。
「冒険者というのは、儲かるのだな……」
シードさんがお外に顔を向けて遠い目になってるー!
「ちょっとムーンラビットさん!皆がどこか壊れちゃったじゃん!」
「はっはっは、イネ嬢ちゃんがレートとか物価のお話すれば解決する話しやしなー」
「あ、やっぱ知ってた!こっちの食べ物とか宝飾品はあっちで高く売れるから、その分でなんとかなるってこと!」
というわけでイネちゃんもムーンラビットさんを利用させてもらったのだ。
お話の流れはちゃんと作ってくれてありがとう、話さなきゃならない流れになったのはちょっと怒りたくなったけど。
「っていうことでこっちとあっちの物価差額で黒字になるってことだよ。こっちの民間人が日常的に食べるような食物があっちでは珍しかったりするからね、あっちにもお米はあるけどこっちのほうがいろんな味があって、それで作られた日持ちするお菓子とかでも結構いい金額になったりするんだよ」
「なる程、商人と同じような儲け方なのか……」
「うん、こっちとあっちだと、普通のお仕事で比べたらあっちのほうがお賃金は圧倒的に高いからね。そのへんの旨みがないとって意味合いもあって行政が管理してるのも影響してるかもだけど」
でないと法外な金額になったり、逆に二束三文で破産したりするからってことで急いで法整備したらしい。
これはイネちゃんがこっちに来るために必要な手続きの時に公務員の人から聞かされただけなんだけれどね。
「ま、地域差だけでも十二分に稼げるんやから、世界が違えばそりゃ相当なもんだよねぇ」
「実際のところお米のお菓子の転売だけでもそこそこの金額にはなるかな、元手は必要だけれども。イネちゃんやお父さん達の場合は動物の加工皮が中心、あっちだと狼さんや熊さんのそれは絶滅危惧ってことで基本的には取引できないからさ」
こっちの世界ではむしろ逆だから完全にWINWINな関係なんだよなぁ、こっちだと害獣として積極的な駆除が奨励されるくらいだし。
というか実際ぬらぬらひょんの人たちは動物さんにむしゃこらされて結構死んじゃったもんなぁ……ティラーさんもそのへん思うところありそうだから結構デリケートな話題にあたると思うけど。
「話しがまた逸れましたが……現状では教会に頼り切るしかできないということだけは再認識させられましたね」
「あぁ、その上で復興や準備に関してはギルドに依頼を出すことでしかまともに動くこともできないということもな」
「オーサ陥落した以上そのへんは致し方ないっしょ、王城にもしっかり連絡を入れる意味で情報の周知徹底だけはしっかりするべきやね、教会のほうはそのへんは無条件で手伝えるから安心してええんよ」
そうやって今後どう動くのかという話し合いが行われたのをイネちゃんとヨシュアさん、それにリリアが眺めているだけだった。
まぁただの冒険者が口を挟めることでもないし、仕方ないんだけどね。
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