六章二話

「楠木先輩の能力は少し変わったところがあるんです。たぶん、楠木先輩と同じような方法で『第三の手』を使う人はほとんどいません」

萌子はその言葉を怪訝そうな顔で聞いたが、侑里にはピンとくるものがあった。

「『第三の手』を固定するのに使う、糸のこと?」

「はい、その糸です。その糸は『存在の糸』などと呼ばれるもので、物体などの存在をこの世界に繋ぎとめているものです」

『存在の糸』と聞いて、萌子は絶句した。『存在の糸』を操る神徒は、世界的な大災害を引き起こす可能性があるため、見つけ次第調査団に報告するように協定が結ばれている。しかし、協定が結ばれているとは言え、。それが「ほとんどいない」ということはつまり。

「『存在の糸』を操る、ウチの学校の在校生は他にもいました。どういう能力かは知っていますから、レポートを見てすぐに気づきましたよ」

「雪河響も『存在の糸』を操る神徒である」という、その先の言葉は聞かなくても侑里には分かっていた。そして、その先に言われるであろうことも。

「桃ちゃん。私は『存在の糸』を切ろうとは思わないわ。たとえ何があったとしても」

震える声で、ゆっくりと、しかし落ち着いて、侑里は断言した。その侑里を庇うように、桃と侑里の間に萌子が割って入る。二人の様子をじっと見ていた桃は、大きく頷く。

「大丈夫です。。だから、楠木先輩には頼らない別の方法で脱出する方法を考えましょう。『青銅の鍵』奥の手もまだ使いません。……とにかく、今はゆっくりと待ちましょう。外の先輩たちがきっと助けてくれますから」

そこまで言うと、桃は仰向けに倒れこんだ。

「えへへ……。黙っていようと思ったんですけれど、ちょっとこれは辛いですね。私はここに吸い込まれてからずっと、吸い込まれずに済んだ菊川先輩の隣に一匹の黒い犬を出現させ続けているんですが、秋原家の狗は出現させている間ずっと体力を失い続けるので……」

「ごめんなさい、また寝ちゃいます」と言い終わらない内に、桃から寝息が聞こえてくる。

「……もしかして、私たちと初めて会った時も、桃ちゃん実は無理してたのかな?」

侑里の独り言に、萌子は聞こえないふりをした。

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