五章十一話

集中し直したところ『第三の手』が見た目こそ変化してしまったものの、問題なく扱えると分かり一息ついたタイミングで、萌子が口を開いた。

「ユリ、秋原さん。二人ともぐったりしてるけど、大丈夫?ちょっと見ていて心配になるくらい弱っているように見えるんだけど」

「私は大丈夫」と笑う侑里と、力なく笑う桃。

「ごめんなさい。なんだか力が全然入らないので、座ってていいですか?」

三人とも部屋の中心に座り、周囲をあらためて見渡す。

三人が突風に吸い込まれた先は、六畳ほどの和室であった。香りの良い畳と、高級そうな和紙で作られた四枚の襖――この辺りの山々が描かれている――に四方を囲まれた部屋である。明かりがないにも関わらず、不思議と明るい。そして、天井には桜のような花が描かれている。このような部屋は、件の昔話には出てこなかった。

「とりあえず……」

侑里は『第三の手』を出現させて、北方向の襖に触れ、自分自身は東側の襖に手をかける。

「開けてみよっか」

侑里の意図を察して、萌子は西側の襖を開ける準備をする。桃は疲労のためか船をこいでいる。声をかけるのは止めておいた。侑里と萌子はアイコンタクトを交わし、同時に襖を開ける。

「まぁ、悪夢とかファンタジーとかでお決まりの奴よね。それなりの和室がいっぱいあるのコピー&ペーストって」

三方全ての先は、侑里たちがいる部屋と全く同じ見た目をした和室であった。『第三の手』を使って何部屋か先まで開けてみても、変化はない。

「あ、そうだ萌子。一個試してみたいことがあるんだけど、何か要らない物持ってたりしない?」

「手帳の切れ端とかで良い?」

そう言いながら、侑里に手渡す。

「ああうんいい感じ。ありがとう」

侑里は受け取ると、『第三の手』に持たせてから、東に二部屋分進んだ先の中心に置いて、襖を閉める。

「何してるの?」

「ホラーでお決まりの奴だけどさ、単独行動した途端に大体消えるじゃん?もしかしたら、この場所も同じかなーって」

襖を開けると、そこにはもう紙切れはなかった。襖や畳を傷つけても、結果は同じだろう。

「……単独行動はできないね」



六章へ続く。

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