五章七話

「ねぇ、ユリ。森はないんだけれど、面白いところがあるのよ。行ってみないかしら?」

菊川のその言葉を聞いて、侑里は口をとがらせるのを止め、菊川の方を向いた。

「どんなところですか?」

「鬼が村人に恋をしたって話は知ってるわよね?その村人が住んでいた家が、まだ残っているのよ。しかも、今なおターナ値2.4というオマケ付き。幽霊のひとつくらい湧きそうじゃない?」

ターナ値が2を超える空間では不思議なことが起こる可能性がある。侑里の「第三の手」も、使用中は周囲のターナ値が2.1ほどに上昇する。

「でもそれ、危なくないんですか?」

「ユリ。危なくなったら全力で逃げればいいのよ。それに、ターナ値3までなら私一人でもどうにかできるわ」

そう言いながら、菊川は自分のバッグから50cmほどの短い杖を出した。飾りの少ない木製の黒く丸い杖で、先端部分に10cmほどの銀色の金属板が金具で取りつけられている。金属板をよく見ると、四隅に火、水、木、風の絵が刻まれ、中央には五芒星が描かれているのが分かった。

「なんですか、それ?魔法の杖?」

侑里がきくと、菊川は悪戯っぽく笑った。

「半分正解。西洋由来であることは間違いないわ。高校生だった時に幸運のお守りだって同級生がくれた物でね。別段幸運だのなんだのの方には役に立ってないんだけれど、金属板の下を握って振るとターナ値3の『何か』が出るのよ。で、そのビームみたいな『何か』に当たると、不思議なことに3以下の神徒の能力が消えちゃうってわけ。幽霊にも効くわよ、試したもの」

菊川は、右手でくるくるとバトンのようにその杖を弄んでいる。確かに、金属板の下はごくわずかに色が変わっていた。何度か使われたことのある物なのだろう。

「……なんでそんなものを菊川さんのお友達は持ってたんですか?」

菊川以外の部員たちは不安そうな顔を浮かべている。特に桃は、菊川から数歩距離を取った。

「さぁ?海外のお土産屋さんで買った以外のことは言ってなかったわよ。別に興味もなかったし、『何か』が出ることに気がついた時には高校生終わってたし」

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