五章五話

「これは一体どういうことよ……!」

萌子が叫ぶ。書いた覚えなどないものだ。しかし、間違いなく萌子自身の字である。戸惑いと、底知れない恐怖と、湧き上がる怒りの中で一つの疑問に気がついた。

「待ちなさい。この紙切れは世界の変革には関係ないじゃない。言ってることがかみ合っていないわ」

桃は激しく首を横に振る。

「いいえ、変革の時が来ようとしています。『青銅の門』の周辺だけは、青い花が舞っていないからです」

秋原の一族によって『青銅の鍵』が使われた記録は全部で三度あります、と桃は更に続けた。

「そのどれもが、『青銅の鍵』のごく近くで何らかの奇跡を起こすというものでした。そして、その三度全てで、『青銅の鍵』から遠く離れた土地で奇跡が起こったのみで、周囲には何の変化もありませんでした。青い花びらが舞った事件も、同様に誰かが『青銅の門』を使った結果、あのようなことが起きたのだと考えます」

「使ったって……」

呆れる萌子に、桃は言う。

「『青銅の門』は大きさも出力も桁違いですが、基本的な仕組みはあの世ネルからもたらされた道具と大差はありません。普通は誰か強い力を持つ術者が念じることで神徒と同じようなことができるようになりますが、今回の場合はが念じたわけではなく、が念じた結果だと思います」

そう言って、桃は自分の携帯電話を取り出して、萌子に見せた。画面には『孤独の樹』が映っている。

「この絵は、作者の思いが絵の具となって、普通の人の目には映らない物を描きました」

このように、と言って、『孤独の樹』の画像を加工したものを、萌子に見せた。萌子が見た通りの花びらが、そこには書き加えられている。

「あの時、ウチの大学にある研究所の他にも、いくつかの神徒の実験をする施設で同様に『孤独の樹』のコピーを見たということが分かっています。多分、実験に参加した神徒たちは無意識下でこの青い花びらを見たのだと思います。その結果、『青銅の門』を奇跡を叶える道具として使ってしまった」


でも、それが全ての過ちなのです。

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