五章三話

侑里が何も言えないまま黙っていると、萌子が口を開いた。

「……ごめんなさい、聞いていた話です。私ったらすっかり忘れていました」

萌子が嘘を言ったという確信が、侑里にはあった。

考えられるのは、神徒の能力によって菊川と斎藤が騙されているということだ。しかし、そうだとするとつじつまが合わない。桃の持っている能力は黒い犬を召喚する能力だ。他人をだます能力ではない。黒い犬自体が幻覚であるという可能性も捨てきれないが、それほどの能力となるとターナ値が常軌を逸したものとなり、社会の中で生活することができなくなる。

侑里が考え込んでいると、音もなく黒い犬が現れた。半透明の姿をしており、侑里の他には誰もそちらの方を見もしないところから、『第三の手』と同様に、人の目に映らない手段で出現させているのかもしれない。

その犬は侑里に近づき、口に咥えた何かを渡すと、姿を消した。侑里が手渡されたものを見ると、手紙だった。宛名には萌子の名前が書いてある。

「あらためて、よろしくお願いします」

桃が深々と頭を下げた。


バスに乗ってから、侑里は萌子に手紙を渡した。

「これ、さっき桃ちゃんからもらった手紙なの。萌子宛てだから、読んで?」

手紙を受け取った萌子は、静かに読み始める。


このまま合宿に行くと、楠木先輩が危ない目に遭ってしまいます。それを防ぐためには、私の能力と楠木先輩の能力、そして茂手木先輩が必要です。勝手なことをしているということも、私が迷惑な存在であることも理解しています。ですがどうか、許してください。

補足となりますが、覚えのないことを菊川先輩がおっしゃったのは、私の能力のせいではありません。誓って、本当のことです。宿。どうか、お力を貸してください。よろしくお願いします。


読みながらとても険しい表情になっていたので、侑里が心配そうに萌子に囁く。

「大丈夫?顔色青いよ?桃ちゃんのせいなら、私がぶっ飛ばしてあげよっか?」

「大丈夫。何も心配することなんかないから」

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