五章三話
侑里が何も言えないまま黙っていると、萌子が口を開いた。
「……ごめんなさい、聞いていた話です。私ったらすっかり忘れていました」
萌子が嘘を言ったという確信が、侑里にはあった。
考えられるのは、神徒の能力によって菊川と斎藤が騙されているということだ。しかし、そうだとするとつじつまが合わない。桃の持っている能力は黒い犬を召喚する能力だ。他人をだます能力ではない。黒い犬自体が幻覚であるという可能性も捨てきれないが、それほどの能力となるとターナ値が常軌を逸したものとなり、社会の中で生活することができなくなる。
侑里が考え込んでいると、音もなく黒い犬が現れた。半透明の姿をしており、侑里の他には誰もそちらの方を見もしないところから、『第三の手』と同様に、人の目に映らない手段で出現させているのかもしれない。
その犬は侑里に近づき、口に咥えた何かを渡すと、姿を消した。侑里が手渡されたものを見ると、手紙だった。宛名には萌子の名前が書いてある。
「あらためて、よろしくお願いします」
桃が深々と頭を下げた。
†
バスに乗ってから、侑里は萌子に手紙を渡した。
「これ、さっき桃ちゃんからもらった手紙なの。萌子宛てだから、読んで?」
手紙を受け取った萌子は、静かに読み始める。
このまま合宿に行くと、楠木先輩が危ない目に遭ってしまいます。それを防ぐためには、私の能力と楠木先輩の能力、そして茂手木先輩が必要です。勝手なことをしているということも、私が迷惑な存在であることも理解しています。ですがどうか、許してください。
補足となりますが、覚えのないことを菊川先輩がおっしゃったのは、私の能力のせいではありません。誓って、本当のことです。全て、遠くの空を舞う青い花のせいなのです。この合宿が終わった時に、あの青い花びらについても知っている限りのことをお話しします。どうか、お力を貸してください。よろしくお願いします。
読みながらとても険しい表情になっていたので、侑里が心配そうに萌子に囁く。
「大丈夫?顔色青いよ?桃ちゃんのせいなら、私がぶっ飛ばしてあげよっか?」
「大丈夫。何も心配することなんかないから」
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