第32話
雪は桜に恋をした。桜は月に恋をした。月は海に恋をした。海は空に恋をした。
恋は美しい。人を狂わせる程美しい。恋に狂った人間は醜い…
「ケイト、眠いなら寝て良いよ」
兄は車を運転しながら私にそう言った。
窓の外は山道で真っ暗で不気味だった。
「うんん…起きてる」
私はうつら、うつらとしながらもそう言った。
時計は深夜二時を回っていた。
ガタガタと言う車の揺れがさらに眠気を増幅させた。
「僕なら大丈夫だから寝なさい…」
兄はそう言うと私の頭を撫でた。その日何だか私は不安だった…今いる場所がと言うこともあるけれど、理由もなく不安だった…
私は頭にある兄の手をギュッと掴んだ。
「ケイト?」
兄は不安そうに私の名前を呼んだ。
兄はこちらを向こうとしたけれど道が安定していないので前方から目が離せなかった。兄はそのまま片手だけで運転を続けた。迷惑を掛けているのは分かっていた。でも、その手を離したくはなかった。
お互いに無言のままだった。それでも兄の手からは「大丈夫」と言う優しい思いが伝わってきた。
山道に灯りは全くなかった。車のライトだけがすぐ前方を照らしていた。月明かりも差し込まず本当に闇しかなかった。
私達は今、母方の祖父の家に向かっている。
その家は山を三つ程越えた奥にある山に囲まれた田んぼだらけの村。
私の実の母親は私を産んだ時に死んだ。母方の祖父は娘の残した忘れ形見だと私を可愛がってくれている。そして兄の事も自分達の孫だと言って可愛がっている。だから私達は毎年一度、春に顔を見せに行く。
私も祖父も祖母も好きだ。でも、この村は苦手だった。この村に来ると何だか兄が遠くなる気がするからだ…
村への入り口は全部で6つある。そこには全て両脇に3つずつ小さな鳥居がある。そこを越えると兄が遠くなる気がしてとても恐いのだ…
山の山頂辺りで兄は車を止めた。
「今日はここで休んで明日のお爺さんの家には朝に着くようにしよ」
兄はそう言うと私をギュッと抱き締めた。
「僕は何処にも行かないよ。僕は僕でケイトの兄だ。血は繋がってなくてもケイトの兄に意外の何でもないよ」
兄はそう耳元で強く言った。私はただ兄に縋るように抱きつくしかなかった。
「大丈夫。お兄ちゃんはここにいるよ。兄としていつもケイトのそばにいるよ…」
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