第24話
私は俗に言う新興住宅地に住んでいる。
春になり窓を開けていると少し遠くから電車の音が聞こえる。
桜が少し咲き始めた晩の事だった。
「今日は風が気持ちいいから窓を開けておこうか」
そう言うと兄はベランダへの出入り口にもなっている大窓を開けた。
窓からはまだ少し冷たいものの心地の良い風が舞い込んできた。
カタンカタン、カタンカタンと少し遠くから電車の音が響く。
ソファーに座りながら窓の外をみると窓の向こうには高層ビルの群れが見える。それはいつも通りの景色。
私はソファーの下に置いてある籠から作りかけのレースを取り出して目を閉じながらそれを編み始めた。
「ケイトは本当に器用だよね」
兄は隣に座るとそう言った。
「何となくなんだけど、見ながらする方が失敗するんだよね…」
そう答えると兄がスッと笑った音が聞こえた。
その後はどちらも喋らず部屋の中は私の編み針が擦れる音と兄が本のページを捲る音、それから窓の外から入ってくる新興住宅地独特の静けさだけが混在していた。
少し気持ち悪さがあったけれど体のあたっている場所から兄の温もりが感じられる。ちゃんと兄が隣に居てくれるそんな安心感が私は嬉しかった。
何台目かの電車の行き交う音が聞こえた時の事だった。
兄がピクリと反応した。
私はゆっくりと目を開けているとベランダからスタンと言う音が響いた。
私が目を細めていると
「頼む!隠れさせてくれ!!」
珍しく焦ったキリ君の声が聞こえてきた。
隣のキリ君の家からは
「キリ!どこ行きやがったぁあああああ」
と言う雄叫びが聞こえてきた。
兄は少し呆れた様に少し溜め息を吐いて立ち上がった。そして兄がキリ君の頭をぽんぽんと叩くと突然にキリ君が消えた。
「えっ!?」
私が驚いていると兄の手の中には一匹の蝙蝠がいた。
兄はいつもキリ君の座る位置に蝙蝠を置くと
「でっ今日は何番目が来たの?」
とキッチンに立ちながらそう言った。
私は訳が解らずに兄の所まで走っていった。
机の上では蝙蝠がベッタリと張り付きながら蠢いていた。
「一つ上」
蝙蝠はそう喋った。私はとっさに兄の腕を掴んだ。兄は少し笑いながら「あれ、キリ君だよ」と言った。そう言われると確かにどことなく目とか前髪の感じが似ている。
私はカップに顔を突っ込んでお茶を飲む蝙蝠を眺めながら魔法って本当に何でもありなのだと改めて思った。
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