第29話 夕食

 私は思いきり露天風呂を堪能した。

 というか全部の浴槽と施設を試し過ぎて、若干ふらふらにっている。

 我ながら調子に乗っている。

 もっとおとなしくて目立つ事を極力避ける性格。

 そう自分では思っていたのだけれど。

 私の他にあちこち動き回っているのは咲良さんくらい。

 先輩達は慣れているせいか周回コースがそれぞれ決まっている感じだ。


「そろそろ御飯なのですよ」

 更衣室の掃き出し窓から女の子が顔を出してそう告げる。

 あれは昨日パソコンを持ってきた小柄な先輩だな。

 詩織先輩と呼ばれていたんだっけ。

 さっきの話からすると愛希先輩の1年上だから高専の5年か。


 先程の更衣室に戻り、渡された浴衣に着替える。

 聟島温泉と書いてあるのでここ専用に作ったものらしい。

 凝っているというかお金をかけているというか。

 ただサイズ的には私にちょうど良かった。

 ちょっと足を崩すと微妙な感じになりそうだけれども。


「濡れた足で歩いてもここのたたみは大丈夫なんですか」

 咲良さんが質問。

 先輩達はわりと濡れた足でペタペタそのまま歩いてきている。

 確かたたみは湿気に弱くて気を抜くとカビが生える。

 うちの古い実家もそうだった。


「底を二重にして、下に換気させる魔法素材を入れているんです。それに使用後に魔法で乾かしますし」

 なるほど。


 ゆっくり風呂を出たら先輩達が御飯関係を運んでいた。

 慌てて手伝う。

 料理のアイテムは随分多い。

 そして豪華で南国風だ。


「好き嫌い特になし、アレルギー無し、ニンニク香辛料平気と聞いたけれどさ。もし苦手な物があったら遠慮無く言って。代替なり何なり作るからさ」

 どうも学生会室で私の斜め前にいた細身の魔法工学科の先輩が料理担当らしい。

 名前は何と言ったっけな……


「朗人、今日のスープも辛い奴では無いのです」

 詩織先輩が彼に不平を言う。

 そうだ、朗人先輩だ。


「今日は初心者歓迎メニューですから。ただ詩織先輩がそう言うと思って、典型的なトムヤムクンスープも作っておきました。20杯限定ですけれど。奥の寸胴から勝手にとって下さい」

 20杯で限定なんてとんでもない量だよな。


 ただ既に座卓の方はアイテム数含めとんでもない事になっている。

 蒸し鶏と目玉焼きと微妙に白くない御飯が載った平皿が1人1皿。

 他に、1人ずつ白っぽいスープがついている。


 そして大皿に、

  ○ 鶏と何かの魚の唐揚げ

  ○ 冷たい茹で鶏と目玉焼き

  ○ キノコとたまごの炒め物

  ○ 何か材質不明なサラダ

  ○ ポテトサラダ

が盛ってあり、更に小皿2つにちょっと変わった臭いの葉っぱが刻んである。

 この葉っぱはきっと噂に聞くパクチーだろう。

 カメムシの臭いという評判だがちょっと違う気がする。


 あと料理以外には。

 3人程学生会室にいなかった人が加わっていた。

 いずれも若いしそう年が離れていない感じだ。

 ひととおり料理を運んで食卓に着いた時点で愛希先輩が口を開く。


「紹介するよ。3人とも元学生会幹部で魔技高専の5年生。じゃあルイス先輩から」

 わりと小柄な濃い茶髪の男子生徒だ。

 顔つきと肌の色からして白人系かな。

「ルイス・ヴィンセント・ロングだ。攻撃魔法科5年で去年は学生会長をやっていた。よろしく」


 次に立ち上がったのは色の薄い金髪ショートヘアの女子学生。

「ソフィー・サラ・グリンヒルです。補助魔法科5年で昨年の副会長です。どうぞよろしく」


 最後は詩織先輩だ。

「田奈詩織ですよ。魔法工学科5年で去年の監査担当です。よろしくです」

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