第19話 学生会室

 この学生会。

 ほぼ初めての場所だけれど比較的話しやすい。

 雰囲気が学生会という厳めしいイメージと大分異なる。


「それにしてもすみませんでした。何かいきなり手伝って貰ってしまったそうで」

 副会長さんがそう頭を下げる。


「いえ、それはいいんです。どうせ暇でしたし」

「見事だったわよ。工作魔法並みの精度で熱線魔法使っているの。プチプチ1枚でも5枚重ねでもきっちり切っているのに床に跡が一切無い。正直羨ましい」


「青葉の魔法は限りなく攻撃魔法科だしな」

 向かいのちょい太めの男子学生がそう言った。


「うーん、自覚はあるのよ。どうしても精度よりパワー重視の癖が抜けなくてさあ。闇魔法でもそれで苦労している。でもこれでも大分工作魔法は進歩したんだよ。そりゃ典明や朗人には負けるけれど」


「逆に青葉のパワーは羨ましいけれどね。僕の魔力だと厚い金属板の加工とかは反則杖使わないと無理だし」

 今度はもう1人、細めの男子学生。

 話の内容からすると向かいの席のエイダさんより右側の3人は魔法工学科らしい。

 あと上席にいるロビー先輩と呼ばれていた人もそうなんだろうな。


 とすると……。

 私は昼休みの話を思い出す。

 亜理寿の先輩は学生会にいて魔法工学科って言っていたな。

 とすると多分……


「青葉先輩でいいですか、ひょっとして術式学園出身ですか」

「ええ、そうだけれど」


「なら、植野亜理寿って……」

「えっ、やっぱり亜理寿、来ているの」

 反応は早かった。

「補助魔法科のA組にいます」

 青葉先輩は頷く。


「そうか、補助魔法科か。てっきり攻撃魔法科か、でなければ魔法工学科に来ると思って探したんだけれど。どう、元気そう?」

「元気ですよ。強さを極めたいから攻撃魔法系統の研究会に入るって言っていましたけれど」

「そうか、そう来たか」

 思い当たる節はあるらしい。


「お知り合いだったんですか」

「術式学園小中等部で同じサークルですよ」

 これは副会長さんが答えてくれた。


「私と会長の愛希、そして青葉は術式学園の出身なんですよ。そして私と青葉は同じサークルの出身でもある訳で。亜理寿もそうですね」

 なるほど。

 魔法科のある私立だと術式学園が規模大きいし難易度も一番高い。

 だから魔技高専ここに進学する人もそこそこいるのだろう。


「ところでパソコンの設定とかは大丈夫ですか」

「はい、大丈夫です」

 確かに実家のパソコンや学校の授業で習ったものと微妙に画面が違う。

 でも説明書を読めばわからないところはない。

 学校から与えられたIDとパスワードを打ち込み、メールとSNSの起動まで無事に成功する。


「これで大丈夫みたいです」

 そう言って思い出す。

「そう言えば、代金の5000円は今払えばいいですか。振り込みがいいですか」

「そうですね。まあいつでもどっちでも大丈夫ですけれど」


 後にやる事を残しておくのは苦手だ。

 という訳でカバンの中から財布を出す。

 まだ5000円は充分出せるはず。

 という事で財布の中を見ると5000円札がちょうど入っている。


「代金はどなたに渡せばよろしいでしょうか」

「私ですね」

 私が反応する前にエイダ先輩が立ち上がり、私の席の前に。


「すみません、来ていただいて」

「いえいえ、毎度ありです」

 そう言って領収書まで渡してくれる。

 領収書の受取人は『薊野魔法工業株式会社』になっていた。


「薊野魔法工業株式会社、というのがOBがやっておられる会社なんですか」

「そうですよ。あのパン屋の裏の工場も同じ会社です」

 なるほど。

 どうもその辺のつながりが色々あるようだ。

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