第73話Regrets - 未練 (最終話)
73.
"A Second Marriage 再婚1"
== 樋口瑛士 ==
俺は妻のことが好き過ぎて・・
愛し過ぎて・・
大切にし過ぎて・・
離婚するまでの間、生身の人間としてではなく、壊れ物の人形のように
扱っていたのだ。
――――――
こんな風に自分の気持ちを導くのは、ただのきれいごとだと分かっている。
好き過ぎて、愛し過ぎて、大切にし過ぎて──
ここまでは嘘偽りのない妻に対する感情である。
だが、深層を覗いてみると──
それはあまりに軽率で破廉恥な自分の行為が見えてくる。
最初は、軽薄で卑猥なことば遊びが少しスリリングで楽しく、
そんなところから余所の女性とのやり取りが始まり……。
どんどん、彼女たちとの交流と妻との間にある関係が別次元で存在するように
なっていった。
彼女たちが皆、性に対して開放的であっけらかんとしていたからか、
妻とは到底できない性技もいろいろとやった。そんな時間を楽しんだ。
そして俺の欲は、満たされた。
だから、妻を抱かなかった。
ただ、それだけのことだ。
妻の気持ちも、妻が望んでいたようなふたりの間に子供を持ちたいというような
家庭生活を続けていくのに大切なことも、うっちゃってたんだな。
その日その日をおかしく楽しく、何も考えずに過ごしてきたのだ。
今思うと、なんにも考えてなかった。
そう、このくだらない理由が妻を苦しめた理由だ。
―――――――――
俺が自分の身体に指1本触れなくなったのを、妻はどんな気持ちで過ごして
いたのだろうかという想いに、この時初めて本当の意味で慮ることになった。
人形なら苦しんだりしない。
だが妻は人間なのだ。自分に指1本触れずに10何年も過ごした夫が
他所の女たちと卑猥な下ネタでやりとりするような遊びをし、もしかしたら
SEXもしたかもしれないと知った日の妻の気持ちを思うと、いかんともしがたい
気持ちになる。
最愛の目の前にいる妻は、昔の妻ではない。
俺だけを知っている妻では、もはやないのだ。
もしかしたら、妻は今もあの神崎蓮を忘れられないでいるかも
しれない。
そう思うと気が狂いそうだった。
愛する妻が他の男と・・何度も何度も・・俺はたまらなかった。
けれど先に妻を裏切るような真似をしたのは自分なのだ。
気持ちはいつだって妻にあったからと言って、贖罪にはならない。
つらいけれど過去のレスが嘘のように俺は眞奈を抱くことを
止められなかった。どうして今まで彼女を放置できていたのか、過去の
自分の行動が歯がゆい。
今の彼女を作ったのが蓮なのも歯がゆかった。嫉妬と悲しみと怒りと
愛しさと・・繰り広げられる痴態。
夫婦の充実した営みを終えると眞奈はすっきりとした顔で眠りに
ついた。
瑛士は新婚時代の自分たちの行動を遠い記憶の欠片から
必死で思い出そうとしていた。
そう、SEXした後の妻の言動がどうだったのか、確認しておきたかったのだ。
それは満足そうに眞奈が早々と自分との語らいも触れ合いも何もなく
さっさと自分だけの眠りの国へと去って行ったから。
半端なく、置き去りにされた感が拭えず。
あまりに時間が経ち過ぎて瑛士は過去のふたりの時間を
思い出すことができず、歯がゆかった。
思い出せなかったけれど、違う・・何かが違う、と本能が囁く。
瑛士は知らず知らずに目頭に涙が溜まっていることに気付いた。
それは悔し涙なのだろうか・・
嫉妬の涙なのだろうか・・
悲しみの涙なのだろうか・・
やっと妻は自分の手の中に帰ってきたのだと思っていたのけれど
おそらく、それは独りよがりというものなんだろう。
自分の感じた違和感は恐らく間違っていないのだろうと思う。
それが何なのか、言葉にするのは勿論のこと、心の中で慮ることすら
したくはなかった。
もう昔のような仕合わせは自分の中に戻ってこないことを瑛士は
思い知らされたのだった。
――――― おしまい ―――――
皆さま、最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。*ᴗ ᴗ)⁾⁾☆彡設楽理沙
❖ ❖ ❖ ❖
2026.1.4 ――――
追記文を掲載してみました。
――――
諸事情で見直しをしました。
きれいごとで終わらせていた-樋口瑛士-の
その彼の深層心理を深堀りして書いてみました。 😇
Regrets - 未練 設楽理沙 @manchikan
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