東京湾で会いましょう

景文日向

失踪

「ん~……さて、今日も仕事しますかね」

空気も冷えてきた、霜月初頭の朝。

私__落合新は、新宿のオフィスビルの片隅で呟いた。

「そうだね……。そういえば、今日は麻希は居ないの?

麻希が無断で休むなんて珍しい……というか、僕たちが仕事始めてから初めてだよね?」

その声に問いかけで返した大崎修は、自分の席に置いてあるマグカップに入ったコーヒーを飲んだ。


修は、私の二歳上の先輩にあたる。

そうは言っても、何処か垢抜けないし年上に思えない。

飾り気もないし、以前二人で外出した時も年相応の恰好ではなかった。

もう二十五歳だというのに、大学生の様な恰好で待ち合わせ場所に現れた時の衝撃は未だに忘れられない。

身に着けている腕時計が中途半端に高級品だったことが、余計に奇妙な空気を作り出していた。


「そうですね……」

そして麻希、というのはこの仕事場におけるリーダー的存在だ。

私達の仕事の配分を決め、彼女本人は定時で帰る。

責任感は強いのか、自分にややキツめのノルマを課している様だ。

しかし、それでも定時にはその量を終わらせ帰っている。大した仕事効率の良さである。

彼女の同期の修の仕事量は、私より幾分か多めに設定されている。

きっと、大した文句も言わないから仕事を押しつけやすいのだろう。

彼が定時で帰るところはもうずっと見ていない。

そして今、修のことは問題ではない。今問題なのは、無断欠勤した麻希の方だ。

「やっぱり変だし、居ないと困るよね……。

言うほど急ぎの用事もなさそうだし、今日は仕事の前に麻希探しかな」

最低限の相槌を打った私に、修はそう提案した。



麻希探しは、ここから始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る