04 発見
落ち着いたころに、周辺を見に行っていた月城先輩が戻ってきた。
月城先輩は水城先輩を見て、俺を見て、最後に時戸を見た。
それはどういう順番なんだろうか。
緊急時にてんぱりそうランキングとか?
「出口はなかった。入口は海が荒れてるから、近寄らない方がいい。スマホで連絡しといたから、明日の朝になれば助けが来ると思う
そういった先輩は防水ケースに入ったスマホを見せる。
文明の利器が水没していないのは心強い。
できる先輩だ。
俺なんて、何をすればよいのか分からず、ぼうっとしていたというのに。
「じゃあ、朝になるまで何してよっか。ちょっと寒いよね」
手をたたいた水城先輩は、月城先輩に手招きをする。
ちょっと距離をあけて座った月城先輩の近くに寄って、一メートルくらいの距離をゼロ距離にした。
白亜先輩は表情を変えずに、視線を明後日の方向に向ける。
「こうやって皆でくっついていれば暖を取れると思うんだけど、どうかな?」
悪戯っぽい笑みでそういった水城先輩は、俺達にも同じようにやれと言っているのだろうか。
純粋な時戸は、こういう時に下心の存在を忘れる。
「順平君、寒いよね」
何かを決心した様子の彼女が俺の隣に腰を下ろした。
男性にこんなにも近づくなんて、という感情が見え見えだが、俺に対してはそう抵抗感がないのだろう。
触れ合った肩からひんやりとした温度が伝わってきた。
時戸の方が寒いんじゃないかと思うと、恥ずかしがって離れる事もできない。
そのまま、互いに身を寄せ合いながら雑談を交わすこと数時間。
たまにスマホの光で周囲を照らしたりするが、洞窟の中は基本真っ暗だ。
だから、疲れもあってすぐに眠ってしまった。
だというのに起きたのは、光を感じたからだ。
小さな光が頼りなく浮かんで、洞窟の奥らしき方向へ飛んでいく。
蛍とか、だろうか。
虫の事はよく分からない。
俺は何となくその光が気になったので、しばらく追いかけることにした。
どうして気になったのか、と考えていたら。美術館での出来事を思い出した。
あの時、美術にめっきり興味のない自分が覚えていた作品は、片手の指で数えるくらいだ。
その中の一つが、蛍の舞う海という作品だ。
なぜかとても強い悲しみの感情を感じて、忘れられなかった。
だから、気になったのかもしれない。
追いかけていくと、洞窟の奥までやってきたようだ。
そこには、白い骨のようなものがあった。
「これって……」
言葉をなくしていると、月城先輩がやってくる。
いつからか分からないが、起きて俺の後をついてきたようだ。
「海で亡くなってから流れてきたんだと思う。君たちが目が覚める前に一応見つけたんだけど、自分がいる洞窟と同じところにあるなんて気分よくないだろ?」
どうやら気を使ってもらったようだ。
俺は気にしないが、時戸は気になるかもしれないな、と首を縦に振った。
「助かったけど、どうするんだ。これ」
「俺達が持っていくのは無理だと思うし、このままここに置いておくしかない」
こういう事にはあまり詳しくないので、よく分からないのだがそれで良いのだろうか。
「むしろ事件に巻き込まれたとかそういうパターンもあるから、証拠を守るために、下手に動かさない方が良いんだよ」
「そういうものなんですか?」
「小説の受け売りだけど」
月城先輩の言葉を聞いた俺は、初めてその可能性に思い至った。
あんなことがあった後だから、自然の脅威のせいだと思っていたが、そうでない場合もあるのだ。
ただでさえ寒いのに、さらに肌寒く感じられてしまう。
「どんな理由にせよ、もしかしたら俺達に見つけてほしかったのかもね。予定より風が強まるのが早かったし。……なんて、冗談だけど」
真面目そうな月城先輩でもそういうことを言うのかと少し驚いた。
インドアっぽくてこういう事に疎いイメージがあったが、意外なところばかり目の当たりにしてしまう。
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