第36話 邂逅

 わたしたちは 全員初対面で

 わたしたちは 自分の役割を知っていて

 わたしたちは 目標を達成するためにいて

 わたしたちは はじめから「友」だ


 夜のビルの間を駆け抜けて

 待ち合わせの場所に立った

 ひとり、またひとりと影が増えて

 なにも言わずに合図だけ送り合う


 終わったな

 終わったね

 おつかれ


 目と仕草だけで交わすのは

 全員、疲れきっていたからだ

 肩で息をして、汗をぬぐう

 それぞれ着ている制服は土で汚れたり破れているし

 わたしの隣に立つ背広は背中がすり切れている

 全力で戦ったから

 相手は思いのほか強大で

 全員で全力でぶつからないとカタをつけられなかった

 ギリギリだったけれど

 誰も大怪我もせず、ここに立っている

 それだけで勝利だ

 わたしたちは務めを果たした


 同時にそれは「終わり」も意味する


 誰かが笑いだした

 皆が笑った

 戦い方について意見がぶつかって喧嘩もしたのに

 学ランもセーラー服もブレザーも背広も

 皆、気持ちは同じだった

 一緒に経験した楽しさを味わうような

 華やかな祭が終わるような

 悲しむことはないと言い合うような

 やさしく明るい笑い声が

 ビルのがれきの中に響きわたる

 「大変だったけど、楽しかった」

 わたしのつぶやきに、側にいた背広が応える

 「そうだよな」

 「…ありがとう」

 「ん?」

 「なんでもない。こんなことってあるんだね。ホントに楽しかったよ」

 「そうだな。確かにおもしろかった」

 能力上、わたしは背広と組んで戦ったのだ

 背広が銃を撃ちやすいようにわたしは標的を誘い出した

 わたしの足元にいた雑魚を背広は撃ち散らしてくれた

 まるでテレパシーでも交わしているような息の合った戦い

 背中を合わせて戦う経験は、きっとこれきりだ

 離れがたいけれど、もう行かないとならない

 終わりの時間は目の前だ

 なにか言わなければと思っていたら、背広が笑った

「邂逅、だな」

「?」

「だからまた逢える。皆ソウルメイトだから」


 そこで目覚ましが鳴って、夢から覚めた。

 霧が晴れていくように、夢のなかのことが記憶から消えていくのを感じた。

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