第28話 さようなら

 実家の客間で寝ようとしたら、廊下から母がいつものように声をかけてきた。

「ちゃんと布団をかぶって寝なさいよ。暑くてもおなかは冷やしちゃダメなんだから」

「はいはい」

「家に帰ったら野菜をたくさん食べて健康に気をつけなさいよ、あんたもいい歳なんだから」

「はいはい」

 いつもここらへんで「まったく、ちゃんとしなさいよ」で締める。そろそろ小言も終わるだろう。眠いんだし、今ははやく寝かせてほしい。

「まったく、ちゃんとしなさいよ」

「はいはい」

「さようなら」

 言って母は立ち去った。

「は……え、ちょ!? おかあさん!? ね、ねえちょっと!! おかーさん!?」


※※※

 母から聞いたことのない言葉を聞いたので、飛び起きた。

 言うだけ言って「さようなら」は、ひたすら寂しく悲しい。

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