第2話 逃げろ




 揺さぶられて意識が戻った。

 なおも揺すってくる手に頷いて、生きてることを教える。

 目を開けると、なにもない正方形の部屋の中央にこんもりと見知らぬ子どもたちが山を作っていた。身を寄せ合ったまま死んだらしい。

 自分は部屋の片隅にいたせいで、助かった。隅にいるほうが生き残れると聞いていたが、本当にそうだった。中央にいる奴らは「この密室で、ガスで殺されるそれならどこにいたって無駄だ」とあきらめ、怯え、身を寄せていた。わずかでも生き残りたいと思った奴が、生き残ったんだ。


 四方の壁が音もなく下りはじめた。部屋に新鮮な空気が流れ込んで来る。

 同時に、はやく来い、と腕を取られる。

 ああ、そうだ。脱出しなければ。

 殺処分した子どもが残っていたら今度はなにをされるかわからない。

 妙に重く感じる身体で、なんとか立ち上がった。


 緑の木陰まで来て、新鮮な空気を思いきり吸う。生きてることを実感した。

一緒に逃げてきた数名(4人いた)と遠くに処分場を見た。4本の柱と天井しかない一室に死体の山がそのまま残っている。


 「なぜ、あのままなんだろ」

 「動物に死体を食わせるのさ。埋める手間が省けるだろ」


 笑いそうになった。

 死体の処分すらも手間なのか。存在が邪魔だという理由あそこでまとめて殺される運命だったが、自分は生き残った。生き残ってやった。

 ざまみろ。


「これからどうするの」と一番小さい子どもが呟いた。

 生き残り方を教えてくれたリーダー格が一方を指した。


 「仲間がいる。合流する」


 行ってどうするかは、まだ聞かない。

 今は生き残ることが先だ。

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