第13話召喚呪

「あら、でもそのスタイルもいいですわ。言われたままに着ていいた私が、情けないですわ。戦いに興じるあまり、お洒落を楽しむことを忘れていましたわ」

「動きにくいよ、それじゃあ。でも、あれつけても同じだから、あたいもちょっとそれをアレンジして、可愛くしてみようかな。ねえ、君。ヴェルド君だったよね。なかなかいいお尻だったよ! 見たところ戦士系だから、後で手合せしよう」

風の精霊と共に、なめまわすように観察しているミストとなぜかブイサインのマリウス。三人の視線に思わず寒気がした。


「まあ、それは後でやってくれ、今は僕の用事が先だよ、ヴェルド。さっきの名乗りで、君はこのタムシリン王国の勇者として固定されている。これは大事な事だからよく覚えておいてほしい」

さっき絡み付いたような感覚は、それだったんだ。

確か召喚呪と言ってたよな。別に束縛された感じはしない。でも、『呪』という言葉を使っているから、きっと私の何かを縛るものだろう……。


「その顔は、理解したみたいだね。元々の年齢が高いのかな? まあいいや、男の過去に興味はないね。とにかく、それがあるから、この国からは命令がない限り出られないし、国を変えることもできない。今は不自由に思うかもしれないけど、そのうち感じなくなるよ。このタムシリン王国の領土であるタムシリン島は、ちょうどに九州より少し大きいくらいだからさ。このあたりは、強制的に流れてくる知識で知っているかな? あと、この縛りは国を守るように、意識を誘導している。なかなかの呪いだから、並大抵な精神では跳ね返せないね。まあ、これは仕方ないよね。何せ僕たちは勇者として、この国に召喚されているんだから」

一気に色々なことをまとめて話してきた。

自分の言うべきことを一気に説明して、自分の用事を終わらせたい。その気持ちが、ありありと態度に出ている。

まるであの時の自称・神様のように、そもそも私と会話する気がないみたいだ。

はっきり言って嫌いなタイプだ。


「まあ、君が僕のことをどう思っても構わないよ。ただ、僕はこの王国から勇者たちの取りまとめを任されているからさ、そこだけは知っておいてよ。ちなみにこの王都タムスには今、勇者は五千人ほどいると思う。テルの街、ユバの街、マダキの街、ガウバシュの街にも、それぞれ散らばっていたんだけど、今はハボニ王国の襲撃を警戒して、全員王都に集まってもらっている。命令だから集めたけど、王都の人口にして約一割が勇者だと、王都の住人も大変だろうね」

口調に、全く大変さが伝わってこない。でも、五千人の勇者って、まるでどこかのMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)の世界そのものじゃないか……。その列に、私は参加したという事なのか……。

なんとなく、状況が理解できてきた。


「で、説明はここまで。君も勇者となったのだから、何でも自由にするといい。勇者だから、当然の権利だね。あとは僕の質問に答えてもらおうかな」

またしても、一方的な物言い。でも、おかげで何となく理解する事が出来た。


「また、質問していいなら」

でも、これ以上一方的なのは困る。勇者の取りまとめをしているのなら、その責任はちゃんと果たしてもらいたい。


「ははっ、やっぱりそうきたね。いいよ、今は色々整理もつかないだろうから、分からないなら、その二人にでも聞けばいいよ。ただ、さっきも言ったけど、僕の時間はできるだけ割かないでくれるとありがたい」

もう、この男の性質が分かってきた。他の二人を見ると、黙って頷いている。

もうこの男には、可能な限り頼らないでおこう。


同意の意志を黙って告げる。


「いいね、その頷きは最高だよ。男としゃべるのは、出来るだけ避けたいからね!」

満足そうにしている様子が、ますます嫌になってきた。


この下衆野郎!

こんなのが勇者でいいのか?

こんなのが勇者の取りまとめ役でいいのか?

どうなっているんだ、この世界……。


さっさとこの場を去って一人になりたい……。

自分の状況も忘れて、ため息が出た。

あてはないけど、この男の前にいるよりはましだろう。


ああ、そうだ。

そう言えば、この男の質問がまだだった……。

私が思い出したと同時に、ライトは自分の質問を口にしていた。


「ヴェルド。君、真の勇者だよね?」

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