三日目⑦

「わー、なにこれなにこれー、すっごーい」


 カコは、はしゃぎっぱなしだった。竹林の小道を歩いているときも、スパヴィラに入ったときも、リビングからの眺めも、中庭に出たときも。彼女もキョウみたいに部屋のあちこちをスマホで撮影していく。


「マイアのサイトにあった画像をみて、広くてきれいと思ったけど、実物はそれ以上ね」


 トモは,サクヤにスマホを手渡すと、中庭のデイベッドに横になる。


「写真、お願いね」

「しょうがない……うまく撮れるかな」


 頼まれたサクヤはスマホを構え、くつろぐトモの姿を撮った。


「それじゃあ、次はわたしもお願い」

「わたしもわたしもー」


 キョウとカコからも嬉々として頼まれてしまう。


「べつにいいけど……あとでわたしも撮ってよね」

 これを皮切りに、撮影会がはじまった。


 デイベッドに寝そべるカコからスマホを受け取り、サクヤは被写体を画面に収める。


「スマホで人物を撮るときは、同じ目線の高さにした方がいい。目元だけでなく、顔全体の表情が魅力的に写るから」

「お、おう」


 サクヤはトモの言葉を聞き、屈んでスマホを構える。


「カコは上半身をひねって脚を組んでみて。くびれが強調されて女性らしいボディーラインで撮影できるから。腕はウエストラインを隠さないよう、高い位置でポーズを取ってね」


 カコの撮影をし終えると、今度はキョウが交代して寝そべる。カコからキョウのスマホと交換していると、キョウからまた忠告された。


「サクヤ、人物写真を美しく撮りたいなら光源を考えてね」

「光源って……太陽のことか」


 見上げれば、雲の切れ目から太陽が出てきた。


「光源には順光、逆光、トップ光があって、トップ光ではなかなか美しく撮れない。デイベッドは日陰になってるから大丈夫。フラッシュを使ってみて」

「日中の屋外なのにフラッシュ?」

「そう。表情がよく撮れるから」


 キョウに言われるままサクヤは、フラッシュを使って撮影していく。撮り終えると、キョウにスマホを返し、交代してデイベッドに寝そべった。


「そんなにくわしいなら、キョウが撮影してよ」


 キョウはサクヤのガラケーを受け取らず、ボストンバックからストロボを取り出し、自前のデジカメに取り付けはじめた。

 興味ありげに、トモとカコは彼女の手元を見ている。


「ストロボを使ったほうが暗い場所でも明るい写真が撮れるし、手ブレ、被写体ブレを大幅に軽減できる」


 キョウは両手の人差指と親指でつくった指フレームで撮影場所を決めると、デジカメを構えた。


「さらに軽減するには」


 キョウは一旦デジカメを置いて、ボストンバックから筒状の機材を取り出した。


「なにそれなにそれー」


 トモとカコがキョウの手元を覗き込む。


「三脚だよ」


 キョウはメーカー名の書かれた脚だけを伸ばし、あらかじめ決めた高さとアングルなどを調整し、残り二本を伸ばして三脚を安定させてからデジカメを取り付けた。 


「手ブレ補正機構は、あくまでブレ補正だから、人がカメラを持った振動以外は除去できない。カメラが大きく動かないために三脚の出番ってわけ」

「それ、重い?」


 トモの問いかけにキョウは、


「旅行に持ち歩くには邪魔にならない重さとサイズだよ」


 自慢げに話し出した。


「重さは一キロほど。脚部を一八〇度反転して折りたたんで収納したときの長さは二十七センチ。高さは最小三十センチから最大百五十五センチまでと、伸縮の幅が広い。耐荷重もニキロと申し分ない」


 キョウにシャッターを切られながら、サクヤはレンズを見つめ続ける。手際の良さは、素人とは思えない。彼女がここまでカメラに興味があったとは知らなかった。

 サクヤは尊敬の眼差しをむけて微笑んだ。


「キョウ、自分で調べたの?」

「それもあるけど、写真教室に通った」

「まじでか」


 サクヤたちは、キョウの行動力に感服する他なかった。

 四人揃っての写真を撮りながらサクヤは、今回の旅行の件でトモと電話で話しているときに「まるでプチ同窓会だね」と口にしたのを思い出していた。あのときは、何の気なしにつかっただけの言葉だったのに、いまはそう思えてくるから不思議だった。

 撮り終えたサクヤたちは、ウェルカムフルーツとハート型のさくさくクッキーをつまみながら、町で買い物をしてからスパ・トリートメントを受けることに決めた。


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