別府精一(警察官)【1】
鹿児島県鹿児島市
4月28日(木)
久しぶりの終日休みなので、別府精一はひねもす酒をあおるつもりだった。前日は――いや、細かいことを言えば、署を出たのは午前二時を過ぎていたが――帰宅途中にドラッグストアでビールや焼酎、日本酒、つまみをしこたま買い込んで、500缶三本とカップ酒を二杯半空けたところでソファに沈んでいた。今朝は今朝で、ぬるくなった焼酎で眠気を流すと、冷蔵庫から冷えた日本酒をとりだして、テレビを観ながらごろごろとしていた。本格的な家庭菜園のあれこれを、プライベートでは絶対に手を土で汚したりしないだろうハーフ芸能人が、おおげさな身振りとリアクションで紹介してくれる。別府自身もまったく興味がないが、最近ではむしろまったく興味がないテレビのほうが、酒のお供に気楽に見れる。昼過ぎまでだらだら飲んで、またソファの上でうつらうつら、はたと目を覚ましてはまた酒をちびりとやる。聞くでもないテレビの音が垂れ流されるなか、髭も剃らず、風呂にもはいらず、昨日から着替えもせぬまま、ひたすら夢のなかのようなアルコールの波に揺られる……
そんな極上の休日を過ごしていたはずなのに、痛むこめかみを押さえながら、どうして俺はスタバの椅子に座っているのだろう? どうして部下の八房尚樹の、眉間に皺を寄せた顔が目のまえにあるのだろう?
八房は口許からタンブラーをおろすと――こいつは生意気に、マイタンブラーなどで注文しているのだ(しかもキャラメルフラペチーノだと?)――、ただでさえ渋い表情をさらに深いものにした。
「別府さん大丈夫ですか? ここまで酒が臭ってきますよ」
「だぁいじょうぶ、だいじょうぶ」
別府は二度、三度とうなずいてみせたが、控えめに言ってもひどい二日酔いであることは自覚していたし、八房が自分の言葉を信じていないこともわかっていた。
カップを一口、大きくあおる。いまは酒以外の何を飲んでも泥の味しかしない。喉の奥でねとつくそれを無理やり飲み下すと、胃のなかで熱いコーヒーが暴れるのにしばし耐えた。
「……それで、なにかわかったの?」
「はい」
八房はすこし姿勢を正し、身を乗り出した。
「迫允人のカネの使い道について、だいぶわかってきました」
うなずくと、別府はもう一度、今度はちびりとコーヒーを啜った。酔いも――ほんの少しだけ――醒めてくれたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます