第56話


 陽來の家を後にした俺たちは駅の前で別れた。



「明日、私がこれまで調べてきたことを教えるわ。神々廻さんのお姉さんのことも、あなたのことも」


 何かを知っているらしい姫条は、その日はそれ以上言おうとしなかった。




 そして、翌日。

 理科準備室に入ってきた姫条は、まるでそこが自分の指定席であるかのような態度で、机を挟んだ俺の前に腰を下ろした。


「セイロンティーをお願い」


 ちょっと高めの喫茶店に来たみたいに言う。

 俺は店員じゃねえぞ。

 思ったが、素直にカップを用意する。ティーバッグを入れ、既に沸いていたお湯を注いだ俺は姫条がじっとこっちを注視していることに気が付いた。



「ねえ、あなた、本当にこの学校の生徒?」

「は?」


 眉を持ち上げた俺に、姫条はカップを自分の方へ引き寄せる。


「マユリのことを調べるついでに、あなたの身元も調べようとして学校中に聞いて回ったのよ。この春に亡くなった生徒はいないかって。そしたら、誰も死んだ生徒はいないって言うの。失踪した女子生徒はいるみたいだけどね」

「それってつまり……」

「もちろん、学年の境目だからいろんな可能性を考えたわ。卒業生のアルバムも見たし、新一年生だったということもありうるから教師にも聞いてみた。だけど、この学校が始まって以来、在学中に死亡した男子生徒はいないのよ」

「俺がこの学校の生徒じゃなかったとして……なんで俺はここの制服を着てるんだ?」

「それが説明つかないから困ってるんじゃない」


 姫条は苛立たしげにティーバッグを投げ捨てると、湯気の立つカップに口を付けた。


「すぐに調べがつくと思っていたのに、いきなり迷宮入りになったわ。これで制服マニアだったなんてオチなら許さないわよ」


 そんなオチは俺の名誉のためにも勘弁して欲しい。

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