23話 連絡
美佳に励まされて、思い切ってカクヨムの運営に連絡をしてみた。
しかし、連絡は返ってくることなく、その日から一週間が過ぎていた。
「ただいま~」
休日出勤を終えて、玄関の扉を開く。
しかし『おかえり』という返事はない。
基本的に日曜日は俺が家にいるのだが、今日は出勤日だったために、夜の九時過ぎに帰っても家の中は暗いままだった。
美佳は今日ゲームの収録で遅くなるから、晩御飯は外で済ませてきた。
「さて、今日も書きますか」
風呂を済ませてリビングの机に腰かけて、パソコンを起動する。
最近は、仕事がある日でも、このようにして執筆作業に励んでいるのだ。
何といっても、読んでくれる読者が一気に増えたため、執筆作業が楽しい。
だからどんだけ忙しかった日でも、書けるし、むしろ書いている時間が癒しの一時だったりもする。
「おっ!通知きてる」
カクヨムを開くと、ベルのアイコンに1件の通知が表示されていた。
早速タップして内容を見る。
『この度は、ご連絡の許可を頂き誠に有難う御座います。私は、月刊少年アクト編集部の宮前と申します。この度は、勇介様の「俺は恋愛経験が少ないが、一つだけ知っている」を拝見いたしました。胸が締め付けられるほどのリアルな物語と、登場人物達の苦悩にひどく共感いたしました。そこで私共は、是非勇介様の作品をコミカライズという形で、月刊連載したく存じます、詳細については下記のお電話番号までお問合せ願います』
「え・・・」
一瞬時が止まる。
「えええええええええええええええ!!!!?????!?!?」
次の瞬間には叫んでいた。
「月刊少年アクトだって!?」
そりゃ、叫びたくもなる。
アクトといえば、歴史こそ浅いもののここ数年で連載作品が次々にアニメ化され、今一番勢いのある月刊誌と言われている漫画雑誌だ。
そんなアクトから、自分の作品を連載したいと言われて、叫ばずにいられるだろうか?いや、いられないね。
「本当に、アクトなのか?何かの詐欺じゃ・・・」
不安になって、メッセージに記載されていた電話番号を調べてみる。
「本物だ」
アクトのホームページの電話番号と一致してしまったのだ。
「いいのか?俺の作品で・・・」
最近こそ人気が出てきたとはいえ、他の人気作と比べたら全く勝負にならないレベルの評価数だ。
それに、エピソードもそんなに多いわけじゃない。定期的に連載を続けていってストックが足りるかも分からないレベルだぞ。
「ただいまー!」
俺が一人悶々と悩んでいると、玄関の扉がガチャっと開いて美佳が帰ってきた。
「おかえり!」
俺はダッシュで美佳の元まで駆け寄り、その勢いのままで彼女を抱きしめる。
「わわっ!どうした、どうした?うれしいけど、苦しいよぉ」
ぎゅっと俺のことを抱きしめた後、離れて離れてという風に俺の体を押してくる。
「あぁ、ごめん。つい」
いったい自分でどうしていいか分からなくなって、美佳に飛びついてしまった。
「で、どうしたの?」
「あぁ、ちょっと見てほしいものがあるんだ」
リビングに移動して、美佳をパソコンの前に座らせて
「・・・えっ?アクトって、あのアクト?」
「たぶん、想像してるものであってる」
「すごいじゃん!ゆうくんの作品が漫画になるんだよ!」
美佳は、綺麗な目をして自分のことのようにはしゃいでいる。
「うん。確かに、これはすごいことだ。一生のうちに一度あるかないかの話だと思う。でも・・・」
「ライトノベル作家になりたい」
「あぁ」
そうだ。俺の夢は漫画の原作者じゃない。そりゃ、漫画家になれるなんてたったの一握りの人間だけで、それは本当に誇らしいことだと思う。
でも、俺の夢はラノベ作家になることだ。それは学生の頃からずっと追い求めてきた夢だ。
美佳との約束も、ラノベ作家になることで叶られる。
「じゃあさ、両方やっちゃえばいいじゃん」
「えっ?」
「別に、漫画家だからラノベ作家をやっちゃいけないってことはないでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
確かに、漫画の原作をしながらラノベの執筆をしている作家さんはいる。
でも、俺なんかがそんな両立できるのだろうか。
結局どちらも中途半端になって終わってしまいそうだ。
「ねぇ、ゆうくん」
「んっ!」
何を思ったのか、美佳に急に抱きしめられた。
「今度は私がゆうくんの力になるって言ったでしょ。二人だったら何でもできるよ。出会ってから6年も一緒にいて、こんなにも円満な夫婦なんだよ?こんな夫婦なかなかいないでしょ?」
「たしかに」
「だから、ほらっ!」
そう言って俺を開放する。
「絶対できるって!私、ゆうくんの漫画も読みたいな!」
美佳にこう言われてしまうとおしまいだな。
「そうだな。俺は美佳を幸せにしたい。美佳が読みたいって言うなら、挑戦してみるしかないな」
「でっしょ!」
やる前から無理なんて決めてちゃいけないな。
漫画連載からつながる未来は絶対にあるはずだ。まずはその世界に飛び込んでみよう。
「美佳、やるよ。そして、絶対にラノベ作家にもなる!」
「うんっ!じゃあ、私も絶対にヒロインになるね」
何度目か分からない誓いをかわし、俺は電話を掴んだ。
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