依頼された文章を書く難しさ

 ここのところお互いに忙しくてふたりで会う機会も減っていたのですが、私の方も新しい生活に慣れて、またあの人と会って話をすることができるようになってきました。


「それで、恋愛に関してはすごくうまく書けるようになってきたんですよ。もう『自分が恋愛の達人になっちゃったんじゃないか』ってくらいに」

 私の言葉に、あの人は答えます。

「へ~、それはよかったね」

「これもいい小説を書くための修行なんですよね?私にWebライターなんてやらせたのもそれが理由なんでしょ?」

「まあ、そうだね」

「それなら狙い通りですよ。かなり効果がありました!直接小説を書くのが上達したかどうかはわかりませんけど、基礎能力みたいなものは底上げされたって実感があります」


 フム、と一息ついてからあの人は答えます。

「最初は、プロのWebライターとして仕事を受ければ、書ける文字数は圧倒的に増えると考えたんだ。しめきりはあるし、必要に迫られて書くという責任感が生じる。きっと、その環境が君の秘められた能力を開放してくれるだろうと踏んでいた」

「そうですね。やっぱりお金をもらって書いているという責任感から毎日たくさん書いちゃいますね。そういう意味ではあなたの目論見もくろみ通りです」と、私。

「それに加えて、“依頼された記事を書く”という行為そのものに役割があると考えた。これまで君は自分の自由に小説を書いてばかりいた。それはそれで結構なことだけど、誰かに決められた枠の中で、決められた方法論に従って書くことが勉強になるんじゃないか?と思ったわけだよ」


 ふぅと一息ため息をついてから私は答えます。

「そうですね。依頼されたルール通りに書くって、最初はとても大変でした。たとえば『こういうキーワードを何回ずつ使って書いてください』なんて感じのルールに従って。でも、慣れてくれば逆にそれがいい刺激になって楽しくなってきちゃったんです」

「それは実にいい傾向だよ。しかも、ルールに従って書くだけじゃなく、その条件下で“読者が望んでいる文章”だとか“自分の作家性”なんかも出していかなければならない。そんなことができるのは上級者だけさ」

「そうなんですか?」

「そりゃ、そうさ。100人に1人もいないだろうね、そんな芸当ができる者は。Webライターの中でも1000人いて何人かだよ。普通の人にとってはルール通りに描くだけでも難しいのに、ましてや読者や作者のことまで考えながら書くだなんて、もはや神業かみわざに等しい」

「へ~、できてるかな?今の私にそこまで?」

「さあ?それは君の書いた文章を読んでみないとわからないけど、でも今できてていなかったとしても、いずれできるようになるさ。君ならばね」

「できるようになるといいな~」

「ほとんどの人は仕事として依頼を受けている。つまり、お金のために文章を書いている。けど、それでは決して到達できない領域というものが存在する。クライアントの指示通りに書いた文章に過ぎない。それ以下ではないけれども、決してそれ以上でもない」

「私だって仕事を選ぶ時にお金も重視してますよ」

「けど、それが一番じゃない。お金はオマケに過ぎない。同じ内容の依頼ならよりギャラの高い方を選ぶ。それはプロとして当然さ。でも、君はそれだけで動いているわけじゃない。だろ?」

「その通りかも」と私も納得します。


 依頼された指示に従いながら、なおかつ“読者が読みたがっているもの”を書き“作者である自分の書きたいこと”も盛り込む。

 確かにそれは大変に難しいことのように感じられました。

 でも、得意分野、たとえば恋愛の記事なんかであれば今の私にもそれに近いことができているように思えます。


 苦手分野に関してはこれからですね。まずは依頼された通り「こういう文体で書いてください」とか「このキーワードを何回ずつ使ってください」というルールに従ってまともな内容の記事が書けるようになること。

 その上で読者が読みたい文章を書けるようになり、自分が書きたいことはさらにそのあとになるでしょう。


 “苦手分野”と一口に言っても様々あります。得意よりも苦手の方がはるかに多いくらい。

 それらを克服して自分の書ける文章の幅を広げていく。それだけでも何か月もかかるでしょう。もしかしたら、何年もかも?

 でも、それができた時、ライターとしてだけではなく作家としても私の能力は飛躍的に向上しているはず。

「その日を夢見てがんばろう!」と決心する私でありました。

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