新作のアイデアを練る

 さて、2作同時に小説を書き進めていくことに決めた私でしたが、一体何を書けばいいのやら?

 迷っていると、あの人がアドバイスをくれました。

「長編にするか短編にするか、まずはそれを決めないと」

「どっちがいいと思います?」と、私はたずね返します。

「文字数を書く訓練がしたいなら、長編の方がいいんじゃないかな?最低限のキャラクターや設定を決めてしまえば、あとは無意識で毎日書き続けられるだろうし」

「なるほど」

「でも、最後まで書き切る自信がないのならば短編にした方がいいかもね。それならば、サッと書き始めてサッと終わらせることができる。その代わり、新作を書くごとにまた新しくストーリーやキャラクターなどを作り直さないといけない」

「大変そうですね」

「長編にも短編にもそれぞれ違った大変さと楽しさがある。それに、作家によって向き不向きもあるしね」

「私はどっち向きですか?」

「さて、どっちだろうね?まだ今の段階ではなんとも言えないけど。もっといろいろと書いたものを読ませてもらわないと」

「そうですよね。まだ始めたばっかりですものね」

「とりあえず、アイデアならばいくらでも提供してあげるよ。自分でアイデアを出すのはまだ大変だろうから、最初はその方がいいだろう」

「よろしくお願いします」

 私がそう答えると、あの人は次から次へと新しいアイデアを出してきてくれました。

 それがもう、とんでもなく豊富なんです。ジャンルからストーリーから設定まで、何から何まで「よく、こんなアイデアを思いつくなぁ」というくらい多岐たきに渡っているのです。それに発想も奇抜きばつで飛び抜けているし。


 いろいろと検討した結果、私はその中からひとつを選び出しました。

 それは現代の世界を舞台にしているのだけど、一種のSFに近い物語でした。政府がある法律を作ってしまったために、とんでもないことになるというお話です。

 とんでもないことっていうか、ある種の人々の人生が急激に変わってしまうと言った方がいいかもしれません。設定はちょっと変わってますけど、基本的には主人公の女性とその周りの人たちが幸せになっていく心あたたまるストーリーです。

 それだったら、私も物語の世界の住人になり切って描ける気がしたのです。


 こうして、私は新作の執筆に取りかかり始めました。

 最初は主な登場人物と大きなストーリーの流れを作っていきました。あまり細かい部分までは考えず、最後にどうなるかも決めずに始めることにしました。あの人が「それでいい」と言ってくれたからです。

「いいかい?小説には決まりきった形式なんてものは何もありはしない。ただ、それぞれの作家によって作り上げられた形式があるだけだ。全部自分で決めればいいし、自分で決めなければならない。他の人のマネをしても仕方がない」と、あの人に言われました。

「でも、世の中には小説を書くための学校があって、みんなそこに通ったりしてるんでしょ?それに、基本的な小説の書き方みたいな本もいっぱい出ていて、そういうのを読んで勉強してるんでしょ?」

「そのことは一度忘れた方がいい。そういう方法がないわけではない。でも、そんなのは量産型の作家を大量生産するだけだ。君にはそうなって欲しくはない。リル、君は君にしか書けない君だけの物語を生み出せばいい」

「私だけの物語?」

「そうだ。そして、そのために大切なのは、君が君らしくいること。君がありのままの姿をさらけ出した時、きっと最高の物語は誕生するだろう。そして、みんなそういう作品を読みたいと望んでいるんだ」

「ありのままの姿。私が私らしくいること」と、私は繰り返しました。

「そう。ストーリーやキャラクターや設定なんかは空想で作りだしたもの。だけど、そこに描かれているのは君自身の姿。だから難しく考えることはないんだよ。心をニュートラルにたもって、ありのまま自然に書きつづっていけばいいだけなのだから」

 その言葉が自信となり、私は新しい物語を書き始めることができたのでした。

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