大門前攻防戦(後)

     ◆


 午前十時。事前の予告通り、大門おおもん外門そともんが開かれ、ついに戦いの火蓋ひぶたが切って落とされた。


 いっせいに前進を始めたゴーレムが、大門の内部へなだれ込んでいく。うす暗い通路が地響ちひびきのような足音で満たされた。


 しかし、まだ内側の格子門こうしもんは下りたまま。一番乗りのゴーレムは、その手前で立ち止まり、キョロキョロとしながら、辺りをうろつき回った。


 そこへ、側壁そくへきの上部にあいた銃眼じゅうがんから、『電撃でんげき』による攻撃が降りそそいだ。ゴーレムはそちらの方向へかけ戻ったが、ジャンプでは届かない高さにあり、そこをにらんだまま立ちつくした。


 行き止まりとわかると、外へ戻っていく個体も現れ、ゴーレムの愚直ぐちょくな行動に改善や進歩は見られない。


 それもそのはず、ネクロがゴーレムに与えた命令は前回とほぼ変わらない。目的地が『ストロングホールドの中心街』から『レイヴン城』へ変更されたのみだ。


 それを格子門ごしに確認した魔導士が、ジェネラルへ報告に向かう。


「やはり、攻撃へ異常に反応するところは相変わらずです」


「わかった。よし、作戦通りに行くぞ」


 それぞれの持ち場に散らばった魔導士たちに、ジェスチャーで合図を送った。


「「「内門うちもんを上げるぞー!」」」


 かけ声がひとたび上がると、それを復唱ふくしょうする声があちこちで上がった。ジェネラルは路地ろじへ引き下がり、中央通り――大門から中央広場へ一直線にのびる通りから、人影が消えた。


 大門の外側でいっせいに攻撃が始まった。城壁塔にあいた銃眼、市街を取り囲む城壁、川にうかんだ船など、大門前のゴーレムたちに向け、そこかしこから魔法が浴びせかけられる。


 さらに、川の向こう岸に展開した騎兵も決死けっしの覚悟で接近し、馬上からヒットアンドアウェイで、できるかぎり敵を大門から引き離そうとした。


 ガラガラと金属音を立てながら、内門がゆるやかに上昇を始める。ゴーレムが通れる高さまで上がると、大門に張りついていた魔導士が、通路内にいる一体へ向けて攻撃をしかけた。


 攻撃を受けたゴーレムのみがこちらを振り返る。見事に一体のみを釣り上げるのに成功し、それが内門をくぐって市街へ入った。


「通ったぞ! 下ろせ!」


 城壁塔から顔をのぞかせた魔導士が中へ呼びかけ、まもなく内門が降下を始めた。


 おとり役の魔導士は、ゴーレムの視界から外れないよう、つかず離れずで中央通りを進み、相手が侵入できない建物と建物のすき間へ逃げ込んだ。


 そこからの誘導は別の魔導士へバトンタッチされた。鋭角えいかくかどをまがり、南地区の水路すいろ方向にのびる通りへ入る。通りの中ほどにロープが張られていて、おとり役はそれをくぐった後に横道へそれた。


 まさにジェネラルたちの作戦も愚直だ。ただし、今回はあらかじめ準備する時間があっただけに、道具、手際てぎわ段取だんどりはおどろくほど洗練されていた。


 ロープをより頑丈がんじょうな物に変えた上に、結び合わせる部分は鎖にした。作戦のかなめとなる馬も計三組用意する周到しゅうとうぶりだ。


 ゴーレムを落下させる場所は、川へと流れ出る水門近くの水路。この日のために、東側の水路をせき止め、西側の水深すいしんを深くさせる措置そちもとった。


 二体、三体と入ってきた時の態勢も万全ばんぜんだ。一体を始末するまでの時間かせぎを、五人一組のチームで行い、誘導するルートも細かく取り決めた。


 ロープをくくりつけてからもぬかりはない。前回の戦闘で、馬の引く力と足元に対するピンポイント攻撃を合わせれば、ゴーレムを転倒させられることが判明している。


 そのためには『突風とっぷう』で勢いづかせた『氷柱つらら』なみの威力が必要だ。それを単独かつ高いレベルで行えるのはジェネラルくらいだが、二人の魔導士がタッグを組めば問題なく実現できた。


「来たぞ! 攻撃開始!」


 そのタッグがルートや水路付近に何組も配置され、たて続けに攻撃を行う。命中率は高くなかったが、四方八方からの攻撃で、ゴーレムはたちまち足をすくわれて転倒した。


 そこからは一方的な流れになる。水路沿いの通りに到着すると、水路をはさむように馬は二手ふたてに分かれる。水路に転落したゴーレムは、馬に引かれる船のように流され、仕上げに次の橋でつないでいた鎖を取りはずす。


 前日に予行演習をくり返したかいもあり、最初の一体を手はず通りにしとめた。水路に沈んだゴーレムは二度とうかび上がることなく、周囲から歓声と拍手がわき起こった。


     ◆


 ジェネラルひきいる部隊が一体、また一体と着実ちゃくじつにゴーレムをしとめていく。猪突ちょとつ猛進もうしんをくり返す敵を、流れ作業のようにさばき、作戦にはささいなほころびさえ見られない。


 ジェネラルはひた走った。水路へ敵を落とした後は、万が一にそなえて大門前へとんぼ返りする。距離的には百メートルもないが、何往復もすれば、さすがに疲れの色が見え始めた。


「ジェネラル、がんばれ!」


 冗談まじりの声が飛び、ジェネラルが顔をほころばす。笑みをもらす余裕が生まれていた。他の魔導士たちも明るい表情を一様にうかべている。


「ジェネラル、少し休憩しますか?」


「いや、まだまだ」


 倒したゴーレムはまだ八体。敵の総数を考えれば、道のりは遠い。を上げるのには早すぎた。


「よし、次行くぞ!」


 ジェネラルが気合のこもった言葉を口にすると、内門が九度目の上昇を始める。


 そんな時だった。勝利への確かな手ごたえをつかんでいたジェネラルの前に、突如とつじょあの男が現れたのは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る