決戦前夜(前)

     ◇


 捕虜ほりょとなったデリック・ソーンは、処刑されることなく、レイヴンズヒルへ送られることになった。


 反乱の鎮圧ちんあつに成功し、肩の荷を下ろすことができた僕らにとって、彼から得られた情報は衝撃的だった。


 近日きんじつレイヴンズヒルに対する総攻撃が開始され、七つの能力を持つ能力者が複数参加する。さらに、『人間を容易にひねりつぶせる、おぞましいモノ』が投入とうにゅうされるという。


 デリックを追及をすると、敵の目的は『源泉の宝珠ソース』の奪取だっしゅで、短期決戦になるという話も自供じきょうした。


 レイヴンズヒルに帰還した僕らを待っていたのは、チーフの戦死という現実だった。それをケイトの口から聞かされた。しかし、悲しみに暮れている時間すらなかった。


 ジェネラルなど主要メンバー不在のまま、緊急会議が開かれた。パトリックやクレアなど、サウスポートに行っていた組が中心だ。


「つまり、ストロングホールドに出現した岩の巨人が、『人間を容易にひねりつぶせる、おぞましいモノ』というわけですか」


「でも、敵のふだ撃退げきたいできたわけだから、総攻撃はさけられたってこと?」


 レイヴンズヒルには楽観的らっかんてきなムードも流れていたけど、それはぬか喜びに終わった。


     ◇


 僕らに遅れること二日。急遽きゅうきょ北部から呼び戻されたジェネラルから、目まいがするような事実を告げられた。


「〈樹海〉の奥深くで、百体以上の岩の巨人を発見した者がいます。後日ごじつ、もう一度確認しに行かせたところ、別の場所へ移された後でした。『総攻撃』というのがせまっているのかもしれません」


 自分も同席どうせきした元老院げんろういんとユニバーシティ幹部による会議は、その対応をめぐって、たちまち紛糾ふんきゅうした。百体以上の岩の巨人が総攻撃に投入されるのはまちがいない。


「ジェネラル。一戦いっせんまじえた者として、率直そっちょくな意見を聞かせてくれ。百体の岩の巨人から、この街を守れるか?」


「百体を同時に相手取るなら、ひいき目に見ても勝機しょうきはゼロでしょう。ただ、二、三体ずつ市街に引き入れて戦えるのなら、話は変わってきます。

 あと、ストロングホールドで捕獲ほかくした岩の巨人についてですが、数日後に貯水槽ちょすいそうの水をぬき、底まで下りて調べたところ、バラバラの岩のかたまりになり果てていました。この事実は好材料です」


「水に沈められれば、どうにかなるということか」


「しかし、少しずつ市街に引き入れることができるのか? 敵は我々の都合を考慮してくれないぞ」


 すでにジェネラルは対抗策をこうじていた。


「岩の巨人は知能が高くありません。攻撃へ過敏かびんに反応するなど、弱点は多々たた見受けられます。全てを一か所――例えば、大門おおもんに誘導できれば、各個かっこ撃破げきはが実現可能と思われます」


 レイヴンズヒルの玄関口とも言える大門は、三十メートル近い奥行おくゆきがあり、前後に門が取りつけられている。


 市街側の内門うちもんは落下式の格子門こうしもん。それの昇降をくり返せば、一体ずつ市街へ引き入れられるというのが、ジェネラルの言い分だ。


「しかし、全ての敵を大門に誘導できるでしょうか」


 パトリックが否定的な意見を述べた。市街全体は壁に囲まれているとはいえ、そこに通じる門は大小合わせて五つある。さらに、敵に〈転送〉トランスポートの能力者がいれば、門はあってないようなものだ。


 結局、その日は何も決まらなかった。


和睦わぼく降伏こうふくも有力な選択肢だと思います」


 会議の帰り道、パトリックは悲観的な考えをポツリと言った。


     ◇


 その二日後。会議中に急報がもたらされた。


「岩の巨人が現れました! その数は百以上! 一団となって、西部の街道をレイヴンズヒル方面へ進撃しんげき中です!」


「ストロングホールドは無事なのか!?」


「いえ、岩の巨人が現れたといった報告は、ストロングホールドから入ってきておりません」


「同行する人間の存在はありませんでしたか?」


遠目とおめで確認しただけらしく、そこまでは……」


「しかし、これは朗報ろうほうです」


「なぜだね?」


「こちらへ走って向かっているからには、そうする以外に移動手段がないという証拠ですから」


 岩の巨人相手に〈転送〉トランスポートは使用できない。過信かしん禁物きんもつだけど、その可能性は高くなった。


 レイヴンズヒルへの経路けいろに西部を選んだことも根拠こんきょの裏づけだ。田園地帯の広がる東部は大小の河川かせんが入り乱れ、場所によっては船で川を渡る必要がある。


 反面、牧畜ぼくちくが盛んな西部は高地のため小川程度しかなく、街道も整備されている。この国の地理を熟知じゅくちしていれば、敵の行動は理にかなっていた。


「これなら、大門へ誘導することも可能なんじゃない?」


「東部経由で来ないという条件つきだが……」


 クレアの意見に、ジェネラルが反応した。発言しづらい雰囲気だけど、思いついたことがあったので、勇気を出して手をあげた。


「ちょっといいですか? 岩の巨人をあやつっているのは、あのゾンビをあやつっていた能力者なんですよね? だったら、二手ふたてに分けたりはしないと思うんですけど」


「そうですね。命令を出してあやつるからには、身近みぢかに置いておくのが普通ですね」


 パトリックが同調してくれ、東部は警戒だけにとどめると決まった。


 西部の街道からは西地区へ入ることもできるけど、街道に出て数百メートルの場所に幅十メートルほどの渓谷けいこくがある。


 そこにかかる木造の橋を、火で焼きはらうなり、切り落とすなりすれば、西地区への道を絶つことができ、大門へ誘導できる。即日そくじつ、それは実行に移された。


 大門の前にかかる石造りの橋は、一朝いっちょう一夕いっせきでどうにかできるものではない。完全に敵を足止めするのは不可能だ。また、大回おおまわりすれば、岩の巨人でも東南地区まではたどり着ける。


 東南地区の門は貧弱ひんじゃくで、そちらに回られたら、自分たちの首をしめるだけ。現状、西部の街や村は襲撃をまぬがれているらしいけど、いつまでそれが続くかもわからない。


 大門で敵を迎え撃つ――ジェネラルが胸にえがいた戦略が、実現できる公算こうさんが高くなった。

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