エクスチェンジ(後)
◆
戦闘が開始してからも、パトリックたちはずっと屋敷にいた。期待していたわけではないが、
しかし、一時間が経過しても、それはもたらされず、作戦が
男が部屋の前に現れたのは、そんな時だ。
パトリックが男を見た。名前は知らなかったが、二、三度屋敷で見かけたため、あやしいとは思わなかった。
しかし、男からただならぬ視線を感じ、念のため、そばのロイに確認を行った。
「二十代なかば男性、
知らない人物を見かけるたびに行っていたので、ロイは
しかし、男は部屋に足をふみ入れ、ゆっくりと歩み寄ってきた。
男――マイケルの体に乗り移ったサイコは、近くのイスを持ち上げた。そして、ギョッとしたパトリックに向かって、思いきり投げつけた。
おどしのつもりだったため、二人には当たらなかったが、イスは衝撃でバラバラになった。
「おとなしくしていたら命だけは
サイコはそう言ってロイを
「あなたが噂の能力者ですか」
パトリックの堂々とした問いかけに、サイコは
「さて、ヒプノティスト。何か、申し開きはある?」
「……申し開き?」
「
意味がわからず、パトリックは
怪力の正体は〈
ただし、能力の使用中は、他の部分がおろそかになるため、
「何もないの?」
「言っている意味がわかりません」
「それなら殺すしかないけど、それでもいい?」
パトリックは相手を見上げたまま言葉を失った。
その時、サイコの背後へまわったロイの手元から、炎が噴きだし、相手の
「熱い! 熱い!」
まさしく焼けるような痛みから、サイコは床でのたうち回った。
「逃げましょう!」
それを横目に、ロイとパトリックは窓から外へ出た。護衛のニコラたちと合流すべく、屋敷の反対側へ向かった。
「……ロイは魔法が使えたんですか?」
「違います。乾燥パスタ用に『
目を丸くしながら尋ねたパトリックに対し、ロイはしたり顔で答えた。
この使用方法はとっさにひらめいたわけではなく、以前から気づいていた。ただ、ウォルターなどから供給してもらう必要がある上に、『梱包』を解くのに時間を要するため、実用的でないと考えていた。
「人間の体って、なんて
本来、サイコは『
立ち上がったサイコがよろめく。前かがみのままフラフラと歩き、部屋の戸口まで行った。そこで、二人組と
大きな物音を聞いて、様子を見に来たコートニーとスージーだった。サイコは運命的な出会いと感じた。すぐにコートニーの容姿に心を奪われた。
サイコがコートニーの片腕を強引につかみ上げ、なめ回すように体をながめる。美しいスラリとした
「ねえ、あなた。私の新しい『器』にならない?」
「……えっ?」
コートニーはあ然とサイコを見た。
「その子から離れなさい!」
騒ぎを聞きつけた侵入者対策室のニコラが、手元で『
「ダメよ。この子はもう私の物だから」
そう言ったサイコの姿が、コートニーもろともに消えた。その場にいた全員があっ気にとられるほど、一瞬の出来事だった。
〈
◇
念入りに女の死を確認した後、丘の上へ戻った。
すると、強烈な
ただ、まだ争うような声が絶え間なく聞こえる。裏口から屋敷へ入って大広間まで行くと、その中央でクレアとヒューゴがたたずんでいた。
そばには縄でしばられた男が座らされ、別の魔導士が玄関の近くで外を見張っている。
「おっ、無事だったか」
「敵は?」
「崖から落ちた」
「……で、敵はどうした?」
ああ、合い言葉のことか。すっかり忘れていた。
「本当に崖から落ちて、たぶん……、死んだと思う」
「はっきりしない答えだな」
「死んだと思うんだけど……」
「やっぱり、はっきりしないわね」
あれだけ苦しめられた相手が、ああもあっさり死ぬのは
「あと三人ぐらい捕まえたが、
捕まっていたのはデリック・ソーンだった。
戦いは僕らの勝利で終わった。でも、言いようのない不安がモヤモヤと胸にわだかまった。
もう一度、女の生死を確認しに行くべきかと考えた時、思いがけない知らせがスージーから届いた。
『ウォルター、大変です! コートニーが連れ去られました!』
『……コートニーが? 誰に?』
『知らない男です。私たちの前に突然現れて、コートニーと一緒に突然消えました」
『消えた……。それはどこで?』
『あの屋敷です。私たちは一歩も外に出ていません』
『
『いや、あいつはもう死ん……』
言葉が
でも、仮に女が生きていたとしても、あの屋敷まで相当距離があるぞ。いくら何でも早すぎる。
『コートニーから連絡が来ました。いったん切ります』
「どうしたの?」
クレアから声をかけられた。考えがまとまらず、言葉をつまらせていると、スージーから
『崖が見える森の中に連れて行かれたそうです』
崖が見える森と言ったら、あそこしか考えられない。……そうか、死体の場所に向かっているのかもしれない。
『今から、そこへ向かうから、時間かせぎするように伝えて』
『わかりました』
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