中央広場事件

事件への道(前)

     ◇


 事前に『交信こうしん』でスージーへ伝えておいたおかげで、まもなく応援がかけつけ、ゾンビ化したトレイシーを取り押さえるのに成功した。


 けれど、ギルは取り逃がしてしまった。確かなのは街道を南に向かったことぐらいで、その後の足どりはつかめていない。能力のことを考えると、あれがギルであったかもあやしい。

 

 レイヴン城へ戻ると、長時間に渡って取り調べを受けた。あいつらから見聞きした話を、つつみ隠さずに証言した。『最初の五人』だの『誓約せいやく』がどうのこうのという話も全部。


 その結果、レイヴン城の一角いっかくにある塔で、処分が決定されるまで軟禁なんきんされることとなった。理由については、パトリックからこう説明された。


「〈侵入者〉をレイヴンズヒルに招き寄せたとして、ウォルターを糾弾きゅうだんする向きがあります。素性すじょうや能力を隠していたことが、心証しんしょうを悪くしているようです。申しわけありません。全て私の責任です」


 今回にかぎれば、あいつらをレイヴンズヒルに呼び込んだのは、僕に他ならない。ただ、問題としては後者が明るみになったことのほうが大きいかもしれない。


 この塔は処罰しょばつを受ける貴族が一時的に幽閉ゆうへいされる場所らしい。そのためか、監獄かんごくといった雰囲気はなく、自宅よりも広いくらいで不満は感じなかった。


 それに何かとスージーが『交信』してきてくれたので、孤独をまぎらわすことができた。自身が置かれている状況など、ささいなことだった。


「残念ながら、二人のトレイシーはゾンビとしてほうむられました」


 尋問後にパトリックから告げられた事実を思い起こすたび、歯がゆさ、やりきれなさで胸がしめつけられた。おそらく、ラッセルもあいつらに殺されたのだろう。


     ◇


 翌日の昼。再び姿を見せたパトリックから朗報ろうほうがもたらされた。


「処分保留ほりゅうが正式に決定しました。もうここにとどまる必要はありません」


 僕の証言によって風向かざむきが変わって、あっけないほどのスピード決着となった。その証言にもとづいたパトリックの反論が、実を結んだと言ったほうが正確かもしれない。


「他人になりすます能力者、ゾンビをあやつる能力者、そして、『最初の五人』と言われる能力が通じない私。かの中央広場事件、および〈樹海〉における戦闘には、多くの謎が残されていましたが、それらの事実によって、全て解明できると判明しました」


「彼らが犯人だったということですか?」


「全て彼らの犯行とだんじるのは語弊ごへいがあります。私はあくまで〈樹海〉の戦闘と中央広場事件は別物べつものと考えています。全くの無関係と言いきることもできないのですが……」


 パトリックは中央広場事件の犯人が辺境伯マーグレイヴであることを確信していると言っていた。新たな事実が判明しても、その考えをまげるつもりはないということか。


「私も責任を問われる側ですから、強く言える立場ではなかったのですが、どうしても引き下がれませんでした。たとえ、レイヴンズヒルに呼び込んだのがウォルターだとしても、彼らは昔からこの国にいました。そして、我々に対して数々かずかずの悪事を働いていたのです。ウォルターに全責任をなすりつけるのはお門違かどちがいというものです」


 自然と表情がやわらいだ。責任からのがれられたからではない。パトリックが身をていして行動してくれたことが、単純にうれしかった。


「ジェネラルも私の味方をしてくれ、話はスムーズに運びました。敵の能力が通じないウォルターは、ノドから手が出るほど欲しい戦力です。調子のいい話ですが、背に腹は変えられないということです」


 いったん話をくぎったパトリックが、神妙しんみょう面持おももちでこう言った。


「ウォルター。いずれ、あなたは何らかの処罰を受けるかもしれません。ユニバーシティに残れる保証もありません。それでも、我々と一緒に戦ってくれますか?」


「もちろんです。あいつらは許せませんから」


 決意をもって即答した。何がなんでもトレイシー達のかたきを討たなければならない。


「まあ、ウォルターをユニバーシティに入れた私も同罪です。その時は私の居場所もなくなっていることでしょう。もしそうなったら、ロイ達と一緒に乾燥パスタでも売ることにしましょうか。眉唾まゆつばな話ですが、私とウォルターはかつて共に戦った仲間だそうですし、きっとうまく行きますよ」


 パトリックが冗談っぽく言うと、思いきり歯を見せて笑ってしまった。


     ◇


「この後、元老院げんろういんとユニバーシティ幹部が一堂いちどうに会し、臨時の会議がとり行われます。そこで、五年前の事件について、私なりの見解を述べる予定です。そこへ、ウォルターにも出席していただきたいのです」


「わかりました」


「言い忘れていましたが、彼らがした『最初の五人』の話はおそらく真実です。事実、試合会場に現れたトレイシーは、私の目にも別人の姿に映っていました。トレイシーだけでなく、仲間のギル・プレスコットという男も同様です。ウォルターには彼の姿がどのように見えていましたか?」


「金髪で中性的な……」


「そうです、私の目にもそう映っていました。しかし、他の方々には黒髪のいかめしい中年男性に見えていました。彼も他人――ギル・プレスコットという男になりすましていたのです。そして、衝撃の事実が判明しました。そのことは会議の場でお話しいたします」


 無意識に〈悪戯〉トリックスターを使っていたわけじゃないのか。そうであっても、信じきれない思いが強い。自分が何十年も前から、この世界に来ていたなんてあり得ない。前世ぜんせとか、そういう次元じげんの話になってしまう。


巫女みこ打倒のために立ち上がったとか、そっちの話はどうですか?」


「それについては心当たりがありませんが……、『転覆てんぷく』する前の記憶を、他の方よりも大幅に失っている気がします」


 『転覆』が起きたのは二十年近く前と言われている。パトリックはともかく、自分は生まれる前の話だ。記憶を失っているでは説明がつかない。

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